「えっ……ほ、本当に?」
「うん……私、アンタと小さい頃友達だったんだね……忘れてた……ごめん……」
「……本当に、思い……出した……の?」
ヒイラギは嬉しいというより、何故か驚きを隠せない表情だった。
「ほ、本当に……? 本当に思い出したの?」
「だから! そうだって言ってるでしょっ!?」
「……だって、なずなは……なずなは……」
「……? 何?」
「……なっ、なずなちょっと苦しい……」
私は、はっと我に返りヒイラギから身を離す。
「あっ……ね、ねぇ、そんな事よりココで何してたの?」
私との婚約を解消したヒイラギが、神様の世界に戻らずこの神社にいたという事は何かしらの理由があるはずだ。
「探してたんだ……」
「探してた? 何を?」
「思い出……」
「思い出?」
「そう、昔……なずなが僕にくれた」
そう言うと、ヒイラギは掌に収まるサイズの小さな丸い缶を私に見せた。
「そこの木の下に、一緒に埋めた……」
「あっ──」
小さなドロップの缶、私は確かに神社の大きな木の下にそれを埋めた事を思い出す。
中身は確か──
「指輪!」
お菓子のおまけの小さな指輪。
でも私の記憶では、あれは私一人で埋めたはずだ。
「そう……コレはなずなが一番大切な宝物にしていた指輪……宝物をあげるから消えないでって、あの時なずなは泣いてたよね……」
そうだ──
私、あの日、この宝物をヒイラギにあげようと思って神社に行った。
でも、もうその時は私にはヒイラギが見えなくなって来て、声も聞こえなくなっていて、それで……
神社に着いた時、私はヒイラギを……
忘れていた。
「……でも、コレはここにいた誰かに渡さなきゃダメだと思っていたから……だから、ここに埋めたの」
「うん……ずっと、その時も僕は見ていたよ……なずなを……なずなの側にいた」
「……やっぱり……アンタって……ストーカー……」
「ごめん……」
「また、私の前からいなくなるつもりだったの……?」
「なずな……」
「記憶もまた全部消して、それで……いなくなっちゃうつもり……?」
もう消えないで欲しいと、心から願った。
また、あんな思いをしたくない。
「なずな」
「私! 許さないからね、またいなくなるの!」
「なずなっ」
「もう、あんな寂しい気持ちになるの絶対嫌だからっ!!」
「なずなってば!」
「帰るとか許さないからね!!」
「なずな!!」
「はいっ」
涙ながらの訴えを、まさか中断されるとは思わなかった。
「 なずな……なんか勘違いしてる」
「勘違い?」
「……いなくなるとかさっきから……」
「だっ、だって! 婚約解消したから……いなくなるのかと……」
「婚約解消は……まだ、してない」