「なずな……お別れの時が来たんだね……」
「お別れ……イヤ、イヤだよっ! どうしてヒイラギっ!?」
「大丈夫……またきっと、なずなが大人になったら迎えに行くから……」
「や、ヤダ……行かないで!!」
「また……きっと会えるよ……だからその時は……」
「……ヒイラギっ!?」
────ひときわ強い風が、私の頬を撫でる。
思い出した。
私は、確かに昔ヒイラギと出会っていた。
何故、どうして……今まで忘れていたんだろう。
あんなに泣いて別れを嫌がったのに、それはやはりヒイラギが神様だからこそ、封印されていた記憶なのだろうか……。
気が付けば、私はアノ記憶の中にあった神社に来ていた。
ここにヒイラギがいるかはわからない、だけど私に唯一残されたヒイラギとの繋がりはもうここしかないと思った。
境内へと続く長い石段。
私は一段ずつゆっくりとそれを昇って行く。
すると──
石段を挟むように両脇に、ぽつぽつと点在していた灯篭の火がまるで道を作るように灯っていった。
私は、自然と駆け出していた。
ヒイラギにもう一度、もう一度会いたい!
その気持ちが込み上げて、自然と涙まで溢れ出す。
「ヒイラギっ!!」
最後の石段を昇り、人の気配のない境内へ向かって叫んでいた。
私の声に呼応する様に、ザワザワと木が風で鳴っている。
ゆっくりと木々の生い茂る暗い道を歩き進んで行った。
すると──
寂れた社の下に、ぼんやりと誰かがしゃがみこむ姿が見える。
私はそっと近づいた。
しゃがみこんだその影は、両膝をついて両手を組み必死に何かを願っているように見えた。
まるで懇願している様な……
「ヒイラギ……」
私はその背中に声をかけた。
「な、なずなっ!?」
ヒイラギは全く気づいていなかったのか、立ち上がろうとしたが驚いて体制を崩し、私の方へと倒れかかった。
「……あっ、ご、ごめんっ!」
すぐに体を離そうとするヒイラギを、私はギュッと力強く抱きしめる。
「な、なずなっ!?」
慌てるヒイラギに構わず、私はヒイラギを抱きしめ続けた。
「……もうっ……会えないかと……思ってた」
「なずな……」
「もうっ! 何でっ!? バカっ!! 勝手にいなくなるとか……ホント、最低っ!!」
「ごめん……」
ヒイラギの手が、私の背中をそっと撫でた。
「私……思い出したの……アンタと会った時の事……」