「僕は、神様だから」
どこからともなく澄んだ鈴の音が響いた。
「神様って、この神社の?」
「ううん、違う……僕にはこんな社はこの世界には無いから」
社、というのは神様にとってのお家の様なものだろうか?
「もしかしてお家……ないの?」
「うん……でも、いいんだ」
私は思った。
ずっと一人ぼっちで、お家がないなんて……
それはどんなに悲しくて寂しい事だろう。
私だったらきっと耐えられない。
だから──
「じゃあ、友達になろうよ」
手を自然と差し出していた。
「友達……? 僕と……?」
「うん!」
私の手を握った彼は、とても幸せそうな笑顔を見せた。
そのすぐ後、私は探しに来た母親にこれでもかとない程に怒られた。
結局、あんなに楽しみにしていたお祭りだったのに、屋台を楽しむ事も綺麗な花火も見れられずに、最後はカンカンになった母に怒られた全くツイてないモノだったけど、それよりも新しい友達が出来た事が嬉しかった。
それからはほとんど毎日、私はその神社に遊びに通った。
「ねえ、そういえば名前は?」
「名前……? こっちの世界での名前はないよ……」
それはある日、いつもの様に二人で誰もいない境内でぼんやりと空を見ていた時だ。
「名前がないと不便じゃない?」
「不便……かな?」
「じゃあ、私が付けてあげる」
「なずなが?」
私は立ち上がり、ゆっくりと敷地の中を見回した。
「決めた! ヒイラギ! あなたの名前はヒイラギに決定!」
「ヒイラギ……?」
私はちょうど視界に入った、ギザギザとした柊の葉を指さした。
「ヒイラギって、悪いモノから守ってくれるんだって! おばあちゃんが教えてくれたの」
「そう……なんだ」
何となく少しだけ、彼は困った様な表情をした。
「ダメだった……? 気に入らない?」
「……いや、ありがとう嬉しいよ名前」
私はそれから、神社で会ったその神様にヒイラギという名前を付けて呼んでいた。
しかし、私が8歳になった頃からだろうか……
「ヒイラギ! ねぇ、いるんでしょ!?」
私にはヒイラギが段々と見えなくなっていった。
最初は声が聞けなくなり、そのうち姿が見えなくなった。
「ヒイラギ! ヒイラギってばっ!?」
「……なずな」
「ヒイラギ! ねぇっ、どうしよう……私段々ヒイラギの声が聞こえなくなってるの……姿も段々見えなくなってる」