最寄りの駅から快速で30分。
そこはいわゆるベッドタウンとなっている、市街地だった。
駅前には大きなロータリーがあり、その周辺には飲食店などが建ち並んでいる。
けれど、少しそこから離れると田畑もあれば大きな川が流れる、どこか懐かし景色が目の前に広がる。
ココは、私の産まれ育った場所だ。
今は両親もこの土地を離れてしまったので、来る事なんてほとんどない。
(何年ぶりだっけ……)
それでも、私は住み慣れていたその場所の道をまだしっかりと頭の中で描く事が出来た。
橋を渡り、田んぼの脇の道路をひたすら歩き進んでゆく。
街灯と通り過ぎる車のヘッドライトだけが、辺りをぼんやり照らしていた。
どこからか虫の声が聞こえ始めて、ああもうすぐ夏なんだと思った。
季節の移り変わりですら最近じゃ、何となく衣替えくらいにしか意識していないかった事に気付く。
昔はよく、夏になると神社の夏祭りに行っていた事をふと思い出した。
沢山の出店が並んで、お囃子の音や、楽しそうな人々、普段なら出歩けない時間のいつもとは違う非日常。
そんな特別な日。
(そういえば──)
お祭りの日、一度迷子になった事を思い出した。
あれは確か、5つか6つの時……
金魚すくいがどうしてもやりたくてダダをこねた私は、母親とケンカして繋いだ手を離した。
ちょっと困らせようとした、子供のちょっとしたイタズラ。
だけど、結局困ったのは私。
完全に母親とはぐれた私は、何かに引き寄せられるように神社の裏手に来ていた。
そして……
そこで、そこで出会ったのだ。
神様に──
「どうして、泣いてるの?」
コレが確か、最初に交わした言葉。
泣いていたのは迷子の私じゃない、小さな男の子だった。
「……僕が見えるの?」
不思議そうに彼は私に聞いた。
変な事を聞く子だと思った。
幽霊でもあるまいし、ハッキリその姿は私に見えたから……。
「うん……ねぇ、何で泣いてるの? 迷子なの?」
「迷子?」
「お母さんやお父さん、おうちの人は? 一緒じゃないの?」
彼は首を左右に振った。
「一人なの……?」
「うん……ずっと一人」
「ずっと……?」
「そう、もうずっと一人……」
「さびしくないの?」
「さびしい……でも、しょうがないから」
「しょうがない……? どうして?」
「それは──」
一際強い風が吹いた。