「えっ……? アイツって……?」
私にはヒイラギが何を言っているのか、一体何の話をしているのかが理解出来ない。
その内容に全く心当たりがなかった。
「アイツの事……なずなは……好き、なんでしょ……?」
「だから! アイツって誰の事っ!?」
目の前のヒイラギは何故か泣いていた、ハラハラと涙を零して私は不覚にも神様も泣く事があるんだと思ってから、その泣き顔があまりに綺麗で一瞬だけ見惚れてしまった。
「……なっ、なんで泣くのよ!?」
「だって……僕がどんなに……なずなが好きでも……なずなは……」
しかし、話し出しても一体何の事なのか全く要領を得ない。
「アンタさっきから、何言って……」
ようやく涙が止まったのか、ヒイラギは決心したかのように話し出した。
「……今日の面接で、なずな会ってたでしょ……同級生の……」
「えっ? まさか……、相原君? って、アンタ……もしかして私の事、尾けてたの!?」
「ちっ、ちがっ! ……いや、違わないかも……離れた場所からなずなの様子を見させてもらってた……」
そう言うと、ヒイラギは手首をくるりと回して、柔らかな光の球体を手の中に作り出し見せる。
そういえば、コイツはこれでも神様だった。
「……隠れてこそこそ覗いてたって事?」
ヒイラギは再び、泣き出しそうになりながら下を向いてしまう。
「ゴメン……なずなが、心配だったから……キスしたくらいでどのくらいの障りの回避が出来るのか、実際、僕にもわからなかったし……」
「で……、私が相原君となんだっていうの?」
「……なずなは、アイツの事が好きだから……それで……」
少しの間を置き、大きく深呼吸すると私の目をじっと見つめた。
「…………それで……ここまでして……アノ会社に就職したいんだよね……」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!?」
恐らく私の顔は、その時、鬼の形相になっていた事だろう。
元はと言えば、ヒイラギが全ての元凶で、今度こそ私はただまともな生活が送りたかっただけで……
それに、相手がヒイラギだから受け入れたっていう事もあったというのに、当のヒイラギは訳のわからない勘違いをして勝手に嫉妬しているというのだ。
「違うに決まってるでしょっ!?」
「だって……じゃあ、なんでっ……」
「なんでって……」
私の中で何かがプツンと切れた──
「私はただ、普通の生活が送りたかったの! あんたが来る前みたいに! 仕事して、友達がいて……普通の生活! ああ、もうあんたって本当に貧乏神!!」