「……う……んっ……」
ヒイラギの吐息を頬に感じた。
柔らかな唇が優しく私の額や瞼、頬へと口づけを落とす。
そして、その手がゆっくりと私の頭から髪を撫でつけ、落ち着かせようとしているのか何度も背中を撫でていた。
まるで壊れ物でも扱うようなヒイラギの手に支えられたまま、背中から私は布団の上に寝かされる。
「本当は、もっと早くこうしたかった」
「ヒイラ……ギ……」
次の瞬間、私の唇は彼の唇に塞がれた。
「んっ……うっ……」
思わず声が漏れ出てしまう。
この前の優しいキスとはまるで違う、なんだか本当に今、私がキスをしている相手がヒイラギなのか不安にさえなってくる。
そんな私の不安など気付いた様子もなく、ヒイラギの手が私の腰の辺りを撫で、Tシャツの隙間にその手が入りこもうとしていた。
アクシデントで裸を見せた事はあっても、こうして見られたり触れられるのはやはり違う。
私は急に気恥しくなってきてしまい、ヒイラギの手を掴んでそれ以上の侵入を拒んだ。
「や……ヤダ! まだ……ちょっと、まだ待って……」
「待てないよ、もう十分僕は待った」
「ひ……いら……ぎ……」
憂いを帯びたヒイラギの表情を見ると、もう抵抗出来そうになくなる。
「まだ……緊張してる? それとも……本当にイヤ?」
「イヤじゃない……でも少し……まって……」
「待つ? ナニを?」
珍しくヒイラギの声色に、苛立ちが感じられた。
「なずな……僕はこの時を、ずっと待ってたよ……」
「ヒイ……ラギ……」
私はもう覚悟を決めた。
もう、後は……ぎゅっと目をつぶった。
しかし──
次に来るだろうと思っていた事はナニも起こらず、それどころかヒイラギの手や唇からもナニも与えられない。
不思議に思った私はゆっくりと目を開けた。
「……やっぱり」
ヒイラギは俯き、ポツリと言葉を落とす。
「ねぇ……なずな、本当はイヤなんでしょ……? だけど、ガマンしてるんだよね……今日の会社でどうしても働きたいから……」
「ヒイラギ……?」
「ねぇ……僕よりも……」
唇が動いたけれど、その音を聞き取る事は私には出来なかった。
「なっ、何急に? なんでそんな事言うの? 私、せっかく面接やっと受かったんだよ!?」
まるで、ヒイラギは私があそこで働く事に反対しているみたいだ。
「なずな……アイツが好きなの?」