「そう、僕となずなの住む場所、なずながこっちに来たらの話だけど」
私はヒイラギに抱かれたまま、ぐるりと屋敷の中を見る。
そこは、ドラマやらマンガの中でしか見た事のない、随分と立派な日本家屋だった。
「洋風のがいいなら変えるけど?」
落ち着きなく周囲に向ける私の視線に気づいたヒイラギは、いつもみたいに優しく微笑んだ。
「えっ? あっ、ううん、いいよ、私こういう方が落ち着くから」
……と、言ってから私は思った。
これではヒイラギとココに住むことを納得したという事になってしまう。
「良かった」
けれど、反論しようにも今のヒイラギにはいつもの様な反論が出来ない。
なんというか、彼が微笑む度に私はドキドキしてしまい、まともに目も合わせられないのだ。
「さっ、着いたよ」
立ち止まった彼の前にある、両開きの襖が静かに開く。
想像はしていたのだが、いざ実際に目にすると心臓は止まってしまうのではないかと思うほど早鐘を打ち、顔が熱く紅潮していくのが自分でもわかった。
ピタリと隙間なく、隣同士に仲良く並んだ眩しいくらい真っ白い布団が二組。
これからそういう事を致すのであれば当たり前の光景なのだが、妙にそれが生々しく、私は思わず目を逸らす。
柔らかなその上に腕から下ろされ、思わずその場でへたり込んだ私は、緊張からか何か関係の無い話題を頭の中で探した。
「あっ、ねっ、ねぇっ、ここって、寝室? 入ってから随分遠いよね? ちょっと遠すぎない?」
「そう? 間取りなんてすぐ変えられるから」
「そっ……そうなんだ、あっ、ねっ、ねえっ! さっきの庭の鯉! アレすごいよね、何匹いるの? あっ、そういえばここの内装って自由に出来るの? それなら私、和モダンとかちょっと憧れるんだよね!」
会話、ともかくそれを止める事が怖くて、思いついた事を早口で話続ける。
「……なずな」
「そうそう、でもこんなに広いと手入れが大変そうだけど、お掃除とかどうすんの? あっ! やっぱり神様の家だしそこはなんとかなるの?」
「なずな!」
「はっ……はいっ」
「やめてもいいんだよ?」
「……ご、ごめん……緊張しちゃって」
「怖い?」
そっと、温かくて大きなヒイラギの手が、優しく私の頬を撫でた。
「ううん、怖くないよ……だってヒイラギだもん」
「ほんとうに?」
「うん……」
「優しく出来ないかもしれないよ?」
「……う……んっ……」