しかし今は、ヒイラギがいつも以上に綺麗に見えようが、思わずときめこうがそんな事よりも、聞いておかなければいけない事がある。
「ココは、神世(カミヨ)……僕の世界だよ」
「神……世? だとしたらなんで急にそんな場所に?」
「立川 なずな……我と契約し、永久に添い遂げ、その誓いをたて盟約を結ぶのであろう?」
「えっ……? まっ、待ってもしかしてこれってその為の?」
「その為に、人世と神世を繋いだ。これが正式な盟約となる為に……」
ヒイラギの腕が、私の方へと伸ばされた。
その途端、背中をトンと押された様に私の体は彼の方へと踏みだし、そのまま体制を崩して倒れ込む。
気が付けば、ヒイラギの腕の中へと収まっていた。
「なずな、もう一度聞くけど本当にいいの?」
憂いを帯びたその表情に、思わず見とれてしまった。
いつもより神々しいと思う彼の姿、それが本当に神様なのだという事を私に思い知らせて来る。
「もう決めたの……」
それに、多分、ヒイラギなら私は大丈夫だと思えたから……。
「……僕も神様とはいえ男だから、多分、なずなが途中で止めたいっ言っても止められないよ? いい?」
「うっ……うん! もう、覚悟は出来たってば、仕事と生活の為だもの」
「そこまでして……」
「いつまでも無職は嫌なんだってばっ!」
「……わかった」
なんだろう、何故かヒイラギは私との行為を拒んでいる様に感じられる。
というか、会社に行って欲しくない……とか?
私の再就職をなんだか喜んでいないようだ。
「それじゃ、部屋に案内するよ」
ヒイラギは決心したのか深い溜息を吐くと私を抱き抱え、そのまま奥の方へと歩き出す。
藺草の香りと、ほんのりと部屋に漂う香が私に緊張感を与えた。
心臓の音が聞かれてしまうんじゃないかと思えるほど、大きく脈打つ。
部屋を奥へと進めば、どこまで続くのかと不安になる程のいくつもの襖が、私たちを招き入れるかの様に自然と開いた。
そこを抜ければ今度は手入れの行き届いた広い庭の見える長い廊下をゆく。
立派な松の木、色とりどりに水面がきらめく大きな池には鯉に似た美しい魚たちが悠然と泳いでいる。
先ほどまで一見神社にも見えたそこが、広いお屋敷の一部だったのだという事を理解した。
「ねっ、ねぇっ、ここってなんなの? もしかしてあんたの家、とか?」
「ここは、僕が神世でなずなの為に用意した住居だよ」
「私の為に?」