『今回のベテルギウスの超新星爆発は、我々天文学者からしたら非常に興味深い現象でした。特に注目してほしいのは、ズバリ地球からの距離。一〇五四年の超新星爆発、現在でいうかに星雲。近年で言うと一九八七年に大マゼラン雲内で起きた超新星爆発。この二つは距離にしてそれぞれ六五〇〇光年、一七万光年離れています。この二つの超新星爆発に比べて今回のベテルギウスは、およそ六四〇光年という非常に近い距離で起こりました。今まで解明できなかった超新星爆発の謎が解明できるかもしれない。それくらい興味深い現象なのです』
 天文学者の力説に、進行役をしていた男性キャスターは口をぽかっと開けている。紗雪も何となくしか知らなかったので、キャスターの気持ちが何となくわかる気がした。
「でも、本当に地球に影響がなくて良かった」
「影響って?」
「ガンマ線バーストの影響だよ」
 父がテレビの方を見るよう、紗雪に伝える。紗雪は視線を父からテレビへと移す。丁度父が言っていた、ガンマ線バーストについての話題へと移行していた。
『ガンマ線バーストは、正直まだ正体がよくわかっていません。そのため我々の予想する一つの説では、超新星爆発の際に引き絞られたガンマ線ということにしています。今までの見解では、ベテルギウスの自転軸からおよそ二〇度ずれた場所に地球があるので、ベテルギウスがもたらすガンマ線バーストの直接の影響はないと言われていました。でも、あくまでそれも可能性。超新星爆発が起きた時の衝撃で自転軸がずれる可能性もある。だから今こうして我々が生きていることは、従来の予想通り目に見える形で影響なかったと言えると思います』 
 コメンテーターの人が、もし直撃していたらという話を天文学者に振った。
『直撃していたら、当然人類は滅亡します。そもそも地球はオゾン層によって守られている。ガンマ線バーストは、そのオゾン層をいとも簡単に破壊するんです。オゾン層が無ければ、地球は太陽に焼かれるので、当然地球上の生物は死滅します』
 実際に過去に起きた海洋生物の大量絶滅を例に、天文学者は活き活きと話を繰り広げている。テレビではもしもの話に、コメンテーターやキャスターが話に花を咲かせていた。
 死滅という言葉を聞いた紗雪は、気持ちを落ち着かせるためマグカップへと口をつける。
 二日前。紗雪は自ら死を望んだ。でも結果的に紗雪は生きている。