すねこすりさんは昨晩も活躍したらしい。平和な町を見て、今日もこの町は綺麗だと寒空の下で深呼吸をした。
 隣町の大学に入学した私は、あの日以来君に会っていなかった。君の携帯電話の連絡先に私のものは無いままのはずだ。もう私のことは覚えていないだろう。少し寂しいが、君がそう望んだのだからそれでいいのだと自分を納得させる。
 高校よりも遠い大学へ家から通っている為、私は以前より朝早く起きることが増えた。途中のコンビニで朝食と昼食を買って、電車に乗って大学へ行き、そして大学で安い弁当を買って帰る。君に出会うまでのような食事に戻ったが、不思議と味がしないなんてことはなかった。
 いつものようにコンビニに立ち寄って、適当に食べ物を買う。
 店員が、すねこすりの話をしていた。
「俺昨日あんまりにも暇だったからさ、すねこすりさん呼んじゃってさあ。ババ抜きした」
「は?!すねこすりさんを遊び相手の為だけに呼んじゃダメでしょ」
「そこそこ楽しそうだったしいいじゃん」
「良くないに決まってるでしょ」
 …すねこすりさんは今も何でも頼みを聞いているようだ。設定通りに生きている君を目の当たりにして、悲しくなる。
 もし君がまた、苦しくなった時。
 君がまた、君を取り戻した時。
 逃げ出したくなった時に、非常口があればいいと思う。役に立たないかもしれない。それでもそばに寄り添えるような存在。私はそれでありたい。
 私の人生の主役は君だ。この先もずっと。
 会計を済ませて、私は店の外に出た。
 雪が降りそうな天気だ。早く駅に向かおう。
 そう思った時、ドサリと何かが落ちる音がして、振り返ると、雪の塊から足が飛び出ていた。誰かが生き埋めになっている。
 慌てて救出しようと駆け寄ると、ズボッと音を立てて、中から人が飛び出してきた。
「ま、また間に合わなかった…」
 栗色の髪に、白い肌。血が目立たないように黒い服しか持っていなくていつも黒い服を着ている、何年経っても姿形が変わらないその少年。
 君は、おずおずと赤い包みを差し出した。
「もう買った後だと思うけど…弁当、いるか?」
「いる。欲しい」
 君は楽しそうに笑った後で、小さく鼻をすすった。それが寒さからなのか、それとも別の何かなのかは分からなかったが、私は君を抱きしめた。
「昨日の悪夢、すごく強かったんだ。死にそうになった。そうしたら忘れてた蜂谷の顔が浮かんで」
「うん」
「蜂谷はすごいな、他のきっと俺が忘れてる人たちのことは、忘れたってこと以外思い出せないのに」
「ふふふ」
「会いたくなって」
「…うん」

「…助けてくれ、俺のかみさま」

 君はそう言って、綺麗に笑った