***

『ザーッ』

時計の秒針の音だけだった部屋に、シャワーの音がダイレクトに響いてくる。

ベッドサイドには、取り払われた私の服と下着が綺麗に畳まれ置かれていた。

「恭ちゃんが出たら、シャワー借りよう……」

彼から浴びたキスで包まれている身体が気になる。

それほど重くはない身体を起こし、ベッドの脇に立て掛けてあったハンドバックからスマートフォンを取り出した。

サイドボタンを押して画面を付けると、メッセージの通知が1件。
タップして開くと、バイト時代からの友人、希美(のぞみ)からだった。

開こうとしたところでシャワーの音が止み、私は慌てて画面を消してそれをバックに戻した。


この半年、私が心の底から待っているのは来るはずもない圭からの連絡だった。それだけだった。

連絡したい衝動に駆られて、何度か圭の連絡先を開いたけれど、それ以上の勇気なんてなくて。


恭ちゃんと過ごす時間も、その一挙一動を圭と比べてしまう。
結局私は圭が忘れられてないし、恭ちゃんに失礼なことをしてる。

それは、分かってる。


「凛乃もシャワー使う?」

パンツ一丁の恭ちゃんは、バスタオルで髪をゴシゴシ拭きながら戻ってきた。

色白で、細身の身体。常日頃から鍛えていた圭とは、全く違う。それが嫌だとか、そういう事じゃないけど。だめ。こんなこと考えちゃいけない。

「うん、ありがとう」

雑念を振り切るように立ち上がると、服を抱え、脱衣所へ向かう。

「タオル、いつものとこだよ」

背中に優しい声がコツンと当たった。

「うん」

磨りガラスになっている脱衣所の扉を締めて、洗濯機の上に着替えを置き、浴室に入った。

シャワーを高い位置にセットして浴びながら、目を閉じる。


仕事で忙しい圭にさんざん尽くしてきた私だけど、恭ちゃんに対しては全く違った。

恋人同士の営みはするけれど、ひとり暮らしの彼のために手料理を振る舞うとか、お掃除とか、こまめな連絡とか、記念日を祝うとか……したことが無いし、記念日さえも忘れてしまった。

それでも好きでいてくれるなんて、恭ちゃんはなんて心が広いんだろう。
この人を本当に好きになれたらどんなに幸せで、満たされるだろう。