一週間後。2人での食事を済ませると、恭ちゃんは青い車で私のアパート横まで送ってくれた。

「ありがとうございました。すみません、結局ごちそうになってしまって」

「僕の方こそ、幸せな時間をありがとう」

「ふふ、優しいですね。では」

降りようとした私は「待って」と引き止められた。後部座席には、いつの間にかピンク色の花束があって。それはパサッと私の目の前に差し出された。

「一目惚れでした。付き合ってください」

恭ちゃんは緊張した様子で、一気に言った。

驚いて花束を受け取りそうになった手を、そっと下ろす。嬉しいけれど、私の答えは考えるまでもなく決まってたから。

でも……その告白と同時に、私は圭からの真っ直ぐな告白を鮮明に思い出してしまった。思わず、泣いてしまっていた。

涙を隠そうと俯いたのだけど、恭ちゃんは覗き込むように私に顔を近づけて、背もたれに押し付けるように短いキスをした。

唇に、圭のそれとは異なる感覚が広がった。
一瞬、何が起きたのか分からなくて。

狭い車内、背には車のシート、それも不意打ちで、避けられなかった。

「元カレが忘れられないならそのままでいいよ。僕が凛乃ちゃんのそばにいたいだけだから」

心の中では驚いて後退りしたけれど、よくドラマで見るような、突き飛ばすとか手で口を抑えるとか、そんなことはしなかった。

恭ちゃんをいい人だとは思っても、好きじゃない。なのに、私を必要としてくれる人の温もりは、嫌じゃなかった。

こんな私のことを好きと想ってくれる人。

私は、目の前に差し出された恭ちゃんの優しさを掴まずにいられなかった。


──この日の私の判断が、私の人生の歯車を大きく狂わせることになるなんて、この時の私は思いもしなかった。