強力なモンスターとの戦いで最後の一撃。それは自分の身をも滅ぼしてしまうほどの強力な魔術を使った攻撃だった。僕の意識はそこで途切れてしまった。そして、気がつくと僕はこの世界にいた。家のベッドで、寝ていた。
「マナブ。」
みんなは僕のことをそう呼ぶ。どうやら僕はマナブという名前らしい。とっさに僕が違う存在へと転生したことに勘付いた僕は、周りの反応になんとか合わせることに成功する。
暖かい家庭、母さんの料理、友達との何気ない会話。その全てが僕にとっては新鮮だった。なんせ、向こうの世界では戦いに明け暮れていたから。目の前の敵を倒す。仲間の命を守る。それ以外のことを考えたことはなかった。だから、こんな生活を送れる世界があるなんて、僕には夢にも思わなかったのだ。
しかし、頬をつねっても僕はこの世界に存在している。これは間違いなく転生だろう。そう、思っていた。
「レオナルド。レオナルド。」
突然頭の中で声が響いたのは、つい1時間前のことだ。そろそろ寝ようとベッドで横になり目を閉じた時、その声は突然聞こえた。聞き覚えのない声。
「誰だ?」
僕は頭の声に尋ねる。
「この世界と、きみのいた世界を繋ぐ存在だ。君たちのいう、神に限りなく近い存在と言っておこう。」
「神、か。僕はそんなもの信じていない。」
その声を無視して、僕は再び寝ようとした。僕の目の前で、かつてたくさんの命が一瞬で消えて行った。なんの罪もない人たち、この世界のような日常を過ごすことなど決して叶わなかった。毎日怯えながら、多くの人々がいなくなったのだ。神なんて、いるはずがない。僕はずっとそう思って生きていた。
「信じる信じないは自由だ。この世は時に理不尽。他人が犯した罪を、自分がかぶることだってあるのだ。それはそうと、レオナルド。きみに伝えなければならないことがある。」
煩わしいが、目を開けて答える。
「僕は今、マナブだ。レオナルドは前世での名。僕は転生して……。」
「それが、手違いだったのだ。何が起きたのかはわからない。きみが一瞬意識を失ったとき、マナブの意識ときみがなぜかリンクした。何が繋がりを作ったのかはわからないが、マナブときみが入れ替わってしまったのだよ。」
僕は、彼の言ったことが飲み込めずにいた。たしかに、僕は最後の一撃とともに意識を失った。僕は死んだのだとばかり思っていたが、仮に意識を失っただけだったとしよう。それが、こちらの世界とリンクしたなんてことがありえるのか?
「意味がわからない。そんなことありえるのか? 僕は死んでいなかったというのか?」
「こちらにも何が起きたのかは、わからない。調査中だ。だが、君は死んでいない。それはたしかだよ。」
「あ、僕とバディを組んでいたエリンは? 彼女は大丈夫なのか?」
「私の担当は君一人だ。他の状況について共有することは許されていない。」
この堅物が。僕はそう言ってしまいそうなのを必死でこらえた。まあ、術を放った本人が死んでいないのなら彼女もきっと無事だろう。
「とにかく僕は、この世界を満喫しているところだ。元の世界には、戻りたくない。」
僕は、記憶のなかで初めてわがままを言った。もう、自分の好きなように生きる。僕は心に誓っていたのだ。
「そうは言ってもレオナルド、きみたちを元の世界に戻さねば二つの世界の均衡が崩れてしまうのだ。」
「マナブは今、どうしているんだ?」
僕はマナブのことが、少し気になった。神々の事情なら知ったことかと思うけれど、マナブがもしも苦しんでいるのならば、元の世界に戻る必要もあるかもしれないと感じたのだ。
「マナブは、きみと同様で元の世界に戻ることを望んでいなかった。困ったものだ。君たちの意思がないと、戻ってもらうことができないのだよ。」
神は苦しそうだった。僕は少し、申し訳なくなってきた。
「世界の均衡が崩れたら、どうなってしまうんだ?」
「二つの世界が交わってしまうのだ。すなわち、住人が行き来できるようになってしまうのだよ。」
「それなら、良いじゃないか。僕もマナブに会えるわけだし。」
はあ、とため息が聞こえてくる。
「きみが倒したボス。あれが、きみの今いる世界に飛んできたらどうなる? 向こうの世界では、人々がモンスターという存在になれていた。しかし、きみの今いる世界ではパニックが起こるだろう。モンスターを倒すことのできる者も、モンスター用の武器もない。つまり、終わりだ。」
思わず納得しそうになったが、僕はあることに気づく。
「それなら、今の状態だっておかしいじゃないか。均衡が保たれているなんていえるのか? 元いた世界では、モンスターがうようよいて安心した暮らしもできなかった。それに引き換え、こちらの世界ではモンスターなんて存在していない。街中で武器をみかけたことすらない。こんなの不平等じゃないか。」
ふつふつと怒りが湧き上げてきて、僕はどうにかなりそうだった。
「きみには、そうみえていたのか。」
まるで、僕のことをおもしろがっているかのようだった。
「なにが言いたい?」
「マナブも同じことを言っていたよ。」
「え?」
「レオナルドの世界は平和だと。」
信じられない。
「モンスターが暴れまわっていたあの世界がか?」
「ああ。レオナルドのいた世界では、モンスターが人間の敵だった。だが、マナブのいた世界では、人間の敵もまた人間なのだと。」
「マナブの世界では、人間がモンスターみたいな存在だと言いたいのか?」
僕は半信半疑だった。僕は、まだそんな場面に出くわしたことがない。
「レオナルド、きみはまだ1日しか時間を過ごしていない。だからわからないんだよ。その世界の醜さが。」
呆れているような口ぶりだった。僕はまだ信じられなかった。マナブの世界は平和で過ごしやすい素敵なところだと思っていたから。
「だけど、僕のいた世界では、皆夜は震えて過ごしていた。いつ、モンスターが現れるかわからないからね。マナブの世界では、そんなことないだろう?」
「それも違う。マナブだってここ最近、ろくに睡眠をとれていなかったらしいよ。まあ良い。あと3日もたてば、きみも帰りたいと思うはずだよ。その間に君たちの心に変化が起こることを楽しみに待っているよ。」
神は、そういうと僕の頭から消え去った。
さっきまでのことはまるで夢だったのではないか、そんなふうに思えてくる。僕は気がつくと、眠りについていた。
「マナブ。」
みんなは僕のことをそう呼ぶ。どうやら僕はマナブという名前らしい。とっさに僕が違う存在へと転生したことに勘付いた僕は、周りの反応になんとか合わせることに成功する。
暖かい家庭、母さんの料理、友達との何気ない会話。その全てが僕にとっては新鮮だった。なんせ、向こうの世界では戦いに明け暮れていたから。目の前の敵を倒す。仲間の命を守る。それ以外のことを考えたことはなかった。だから、こんな生活を送れる世界があるなんて、僕には夢にも思わなかったのだ。
しかし、頬をつねっても僕はこの世界に存在している。これは間違いなく転生だろう。そう、思っていた。
「レオナルド。レオナルド。」
突然頭の中で声が響いたのは、つい1時間前のことだ。そろそろ寝ようとベッドで横になり目を閉じた時、その声は突然聞こえた。聞き覚えのない声。
「誰だ?」
僕は頭の声に尋ねる。
「この世界と、きみのいた世界を繋ぐ存在だ。君たちのいう、神に限りなく近い存在と言っておこう。」
「神、か。僕はそんなもの信じていない。」
その声を無視して、僕は再び寝ようとした。僕の目の前で、かつてたくさんの命が一瞬で消えて行った。なんの罪もない人たち、この世界のような日常を過ごすことなど決して叶わなかった。毎日怯えながら、多くの人々がいなくなったのだ。神なんて、いるはずがない。僕はずっとそう思って生きていた。
「信じる信じないは自由だ。この世は時に理不尽。他人が犯した罪を、自分がかぶることだってあるのだ。それはそうと、レオナルド。きみに伝えなければならないことがある。」
煩わしいが、目を開けて答える。
「僕は今、マナブだ。レオナルドは前世での名。僕は転生して……。」
「それが、手違いだったのだ。何が起きたのかはわからない。きみが一瞬意識を失ったとき、マナブの意識ときみがなぜかリンクした。何が繋がりを作ったのかはわからないが、マナブときみが入れ替わってしまったのだよ。」
僕は、彼の言ったことが飲み込めずにいた。たしかに、僕は最後の一撃とともに意識を失った。僕は死んだのだとばかり思っていたが、仮に意識を失っただけだったとしよう。それが、こちらの世界とリンクしたなんてことがありえるのか?
「意味がわからない。そんなことありえるのか? 僕は死んでいなかったというのか?」
「こちらにも何が起きたのかは、わからない。調査中だ。だが、君は死んでいない。それはたしかだよ。」
「あ、僕とバディを組んでいたエリンは? 彼女は大丈夫なのか?」
「私の担当は君一人だ。他の状況について共有することは許されていない。」
この堅物が。僕はそう言ってしまいそうなのを必死でこらえた。まあ、術を放った本人が死んでいないのなら彼女もきっと無事だろう。
「とにかく僕は、この世界を満喫しているところだ。元の世界には、戻りたくない。」
僕は、記憶のなかで初めてわがままを言った。もう、自分の好きなように生きる。僕は心に誓っていたのだ。
「そうは言ってもレオナルド、きみたちを元の世界に戻さねば二つの世界の均衡が崩れてしまうのだ。」
「マナブは今、どうしているんだ?」
僕はマナブのことが、少し気になった。神々の事情なら知ったことかと思うけれど、マナブがもしも苦しんでいるのならば、元の世界に戻る必要もあるかもしれないと感じたのだ。
「マナブは、きみと同様で元の世界に戻ることを望んでいなかった。困ったものだ。君たちの意思がないと、戻ってもらうことができないのだよ。」
神は苦しそうだった。僕は少し、申し訳なくなってきた。
「世界の均衡が崩れたら、どうなってしまうんだ?」
「二つの世界が交わってしまうのだ。すなわち、住人が行き来できるようになってしまうのだよ。」
「それなら、良いじゃないか。僕もマナブに会えるわけだし。」
はあ、とため息が聞こえてくる。
「きみが倒したボス。あれが、きみの今いる世界に飛んできたらどうなる? 向こうの世界では、人々がモンスターという存在になれていた。しかし、きみの今いる世界ではパニックが起こるだろう。モンスターを倒すことのできる者も、モンスター用の武器もない。つまり、終わりだ。」
思わず納得しそうになったが、僕はあることに気づく。
「それなら、今の状態だっておかしいじゃないか。均衡が保たれているなんていえるのか? 元いた世界では、モンスターがうようよいて安心した暮らしもできなかった。それに引き換え、こちらの世界ではモンスターなんて存在していない。街中で武器をみかけたことすらない。こんなの不平等じゃないか。」
ふつふつと怒りが湧き上げてきて、僕はどうにかなりそうだった。
「きみには、そうみえていたのか。」
まるで、僕のことをおもしろがっているかのようだった。
「なにが言いたい?」
「マナブも同じことを言っていたよ。」
「え?」
「レオナルドの世界は平和だと。」
信じられない。
「モンスターが暴れまわっていたあの世界がか?」
「ああ。レオナルドのいた世界では、モンスターが人間の敵だった。だが、マナブのいた世界では、人間の敵もまた人間なのだと。」
「マナブの世界では、人間がモンスターみたいな存在だと言いたいのか?」
僕は半信半疑だった。僕は、まだそんな場面に出くわしたことがない。
「レオナルド、きみはまだ1日しか時間を過ごしていない。だからわからないんだよ。その世界の醜さが。」
呆れているような口ぶりだった。僕はまだ信じられなかった。マナブの世界は平和で過ごしやすい素敵なところだと思っていたから。
「だけど、僕のいた世界では、皆夜は震えて過ごしていた。いつ、モンスターが現れるかわからないからね。マナブの世界では、そんなことないだろう?」
「それも違う。マナブだってここ最近、ろくに睡眠をとれていなかったらしいよ。まあ良い。あと3日もたてば、きみも帰りたいと思うはずだよ。その間に君たちの心に変化が起こることを楽しみに待っているよ。」
神は、そういうと僕の頭から消え去った。
さっきまでのことはまるで夢だったのではないか、そんなふうに思えてくる。僕は気がつくと、眠りについていた。