興味深そうにするその男の子の、名前が実は全く出てこなかった。見覚えあるし、サークル以外でも顔は合わせてるはずなんだけど。
「もしかしなくても、俺のこと誰だかわかってないでしょ?」
 必死で思い出そうとしているのがバレたのか、その子は整った眉をおかしそうに歪めた。
「ごめん」
「いいっていいって、話すのもほとんど初めてだし。じゃあ改めて、松田(まつだ)潤平(じゅんぺい)です。一応、同じ学科で同じ学年」
「あ、基礎演習一緒だったよね?」
「他にもたくさん一緒の授業とってるんだけどね」
 苦笑いを浮かべるその顔が、記憶の中にはっきりと浮かび上がってくる。くりっとした目のアイドル顔で、綺麗な顔した男の子だなあ、と思ったことがあった。
「いつもぼんやりしすぎなのよね、ヒナは。人の名前とか覚える気ないでしょ?」
「覚える気がないわけじゃないもん。苦手なだけで」
「潤平なんて目立つのに、よく今まで知らないでいれたわね」
 ほんとボケボケなんだから、と呆れる愛香に、知らなかったわけじゃないもん、と心の中で言い訳しながらむくれてみせる。そんな私たちを見ながら、道端さんと愛香ってほんと仲いいよな、と松田くんがくすくす笑った。
「愛香と松田くんも仲いいんだね。名前で呼び合ってるし」
「高校が同じだったんだ。二人とも松田だから、最初っから下の名前で呼ぼうって決めたんだよ。ねえ、俺もヒナって呼んでいい? 俺のことは潤平でいいからさ」
 松田くんがにこっと笑う。
「え、と……」
 いきなり言われて戸惑う私をよそに、松田くんは身を乗り出す。
「初めから馴れ馴れしすぎ? でもさ、俺ヒナと話してみたいなってずっと思ってたんだよね」
 いいとも悪いとも言わないうちに、松田くんが私のことを名前で呼んだ。
「ちょっと潤平、人の話聞いてた? ヒナは絶賛片想い中なの、口説いても無駄よ」
「そうそう、その話。そいつ、うちの学校? この中にいる?」
 あくまでマイペースを崩そうとしない松田くんに、愛香が呆れた声を出す。
「学生じゃないわよ、もっと大人。あんたなんかお呼びじゃないっつの」
「でも片想いなんだろ?」
 じっと顔を見られてたじろぐ。
「う、うん」
「見込みありそう?」
「えーと……」