「バイトって何してるの?」
「ファミレスのホールです。シフトの都合付きやすいし、いろいろな人が来ておもしろいですよ。毎週決まった時間に来るおじいちゃんとか、ワケ有りそうなカップルとか」
暇つぶしに見ていると細かいことに目がいって、いつの間にか人間観察が趣味になった。バイト仲間に話したら、悪趣味って笑われちゃったけど、それからたまにその日見つけたおもしろい人を報告し合うようになった。
「そういえば、私は見てないんですけど、友達がすんごい甘党の男の人を見つけたって言ってました。フレンチトーストにメープルシロップ全部かけて、その上にガムシロップも追加してたんですって。見てるだけで胸焼け起こしそうだったって」
思わず二度見しちゃったわよ、と友達の愛香が笑っていた。見た目はかっこよかったのに、すごい残念、って。桐原さんといいその人といい、男の人って意外と甘党が多いんだなあ、なんて呑気に考えていたら、桐原さんがいきなり立ち止まってこっちを振り返った。
「もしかして、それ東町のファミレス?」
「そうです」
「多分、それ俺だ。バイトの子に二度見されてちょっと笑われた。その子、身長高めで少しきつめの顔立ちの子じゃない?」
絶対に愛香のことだ。
「別に男が甘いの好きだっていいでしょ。なんでみんな笑うかな」
憮然と呟く姿がなんだか子供みたいだ。
「客として進言させてもらうけど、あのメープルシロップは甘みが足りない。別のメーカーに変えることをおすすめする」
まだぶつぶつ言いながら歩き始めた桐原さんがおかしくて吹きだすと、今度は歩きながら振り返る。
「あ、笑った」
「えっ? 違うんです、甘党がおかしいんじゃなくて、なんだかふてくされた子供みたいって」
「ガキくさいって?」
「いえ、違います、すみません失礼なことを」
慌てる私を楽しむように、桐原さんは笑って言った。
「じゃあ、俺たち前にも会ってたかもね。あそこのファミレス、たまに行くから」
「……そうですね」
多分、一度でも会っていたら私は覚えている気がする。でも、彼の方はたかがファミレスの店員のことなんて、一度会ったくらいではきっと覚えていないだろう。カメラマンという仕事のことはよくわからないけれど、きっときれいなモデルさんなんか見慣れているんだろうし。
なんだかちょっとだけ沈んだ気持ちになった私を不思議そうに見て、桐原さんがおもむろに手を差し出してきた。
「そこ、階段だから気をつけてね?」
「え、……きゃっ」
「ファミレスのホールです。シフトの都合付きやすいし、いろいろな人が来ておもしろいですよ。毎週決まった時間に来るおじいちゃんとか、ワケ有りそうなカップルとか」
暇つぶしに見ていると細かいことに目がいって、いつの間にか人間観察が趣味になった。バイト仲間に話したら、悪趣味って笑われちゃったけど、それからたまにその日見つけたおもしろい人を報告し合うようになった。
「そういえば、私は見てないんですけど、友達がすんごい甘党の男の人を見つけたって言ってました。フレンチトーストにメープルシロップ全部かけて、その上にガムシロップも追加してたんですって。見てるだけで胸焼け起こしそうだったって」
思わず二度見しちゃったわよ、と友達の愛香が笑っていた。見た目はかっこよかったのに、すごい残念、って。桐原さんといいその人といい、男の人って意外と甘党が多いんだなあ、なんて呑気に考えていたら、桐原さんがいきなり立ち止まってこっちを振り返った。
「もしかして、それ東町のファミレス?」
「そうです」
「多分、それ俺だ。バイトの子に二度見されてちょっと笑われた。その子、身長高めで少しきつめの顔立ちの子じゃない?」
絶対に愛香のことだ。
「別に男が甘いの好きだっていいでしょ。なんでみんな笑うかな」
憮然と呟く姿がなんだか子供みたいだ。
「客として進言させてもらうけど、あのメープルシロップは甘みが足りない。別のメーカーに変えることをおすすめする」
まだぶつぶつ言いながら歩き始めた桐原さんがおかしくて吹きだすと、今度は歩きながら振り返る。
「あ、笑った」
「えっ? 違うんです、甘党がおかしいんじゃなくて、なんだかふてくされた子供みたいって」
「ガキくさいって?」
「いえ、違います、すみません失礼なことを」
慌てる私を楽しむように、桐原さんは笑って言った。
「じゃあ、俺たち前にも会ってたかもね。あそこのファミレス、たまに行くから」
「……そうですね」
多分、一度でも会っていたら私は覚えている気がする。でも、彼の方はたかがファミレスの店員のことなんて、一度会ったくらいではきっと覚えていないだろう。カメラマンという仕事のことはよくわからないけれど、きっときれいなモデルさんなんか見慣れているんだろうし。
なんだかちょっとだけ沈んだ気持ちになった私を不思議そうに見て、桐原さんがおもむろに手を差し出してきた。
「そこ、階段だから気をつけてね?」
「え、……きゃっ」