いつの間にか真っ暗になっていた部屋の中で、携帯が震える音が響いた。開いたままなにも写していなかった目に、ちかちかランプが光るのが飛び込んできた。沢木さんだった。ぼんやりとした意識の中で、それでも出なければ、と冷静に考える自分がいて、のろのろと手を伸ばす。
『もしもし、ガク? 今から行くけど、なんか食いたいもんあるか? ……もしもし? 聞こえてるか?』
 訝しげに問う声に、何か答えなければ、と思うのに、喉が張り付いたように声が出ない。
『おい、どうした? なんかあったか?』
 にわかに深刻さを増す声に、なんでもない、と答えようとして、口から出た言葉は全く違っていた。
「どうしたら……」
 やっと出た声は震えていた。
「どうしたら、いいですか……?」
 どうしたら、認めてもらうことができたんだろう。どうしたら、優衣は死なずに済んだんだろう。
「俺……」
 どうしたら、許されますか?
 カスカスの小さい声だったけど、沢木さんにはちゃんと聞こえたようだった。
『とにかく、今から行くから。余計なことなんも考えんな。そこにいろよ?』
 声を出さずに、ただ頷いた。電話越しでもその気配が伝わったのか、沢木さんはもう一度念を押すように、そのままそこにいろよ、と言って電話を切った。
 金縛りが解けたように感覚が戻ってきて、慣れない正座をし続けた足が血流不足を訴え始めた。俺は携帯を握ったまま仰向けになって、暗闇の中天井を見上げる。
 俺はこれからどうすればいいんだろう。優衣のいない世界で、どうやって息をして、どうやって毎日過ごせばいいんだろう。誰かに教えて欲しかった。これからの生き方も何もかも誰かの選択に委ねて、ただ、自分から逃げてしまいたい、と思った。