沢木さんの静かな声が割って入って、理恵が俺を睨みながら唇を引き結んだ。
「人の生き死になんて誰かに左右されるようなもんじゃない。自分のせいだなんて言えるのは、生きてる人間の驕りだよ」
淡々と語る言葉が昂りかけた心を落ち着かせてくれる。
それでも。俺は俺のせいだと思うことを止められない。
「昨日、お葬式が済んだわ。もう、骨だけになっちゃった」
しばらく黙り込んだあと、理恵がまたポツリ、ポツリと話し始めた。
葬儀は、中屋優衣として、身内だけでひっそりと行われたらしい。親族には誰にも、優衣が妊娠したことも、結婚したことも知らされないまま。
携帯を切ったままだった俺を心配して、理恵は葬儀が終わったあとすぐに東京へ引き返してきてくれた。
「もしかしたら仕事にはちゃんと行ってるかも、と思って会社に電話したんだけど」
こちらも連絡が取れずに困っていた沢木さんに繋がって、二人で一緒にここに来た。
「あなたまで死んでるのかと思った」
怖かった、と呟く理恵の目に、また涙が滲んだ。
俺は何も言えずに、ただ俯いて、理恵のすすり泣く声を聞いていた。
しばらく、誰もなにも喋らなかった。理恵の泣き声が落ち着くまで、沢木さんは黙って見守っていた。
理恵が落ち着いた頃、そろそろ帰るわ、と言って沢木さんが立ち上がった。
「とにかく、しばらくは仕事来なくていいから、ちゃんと食って体力を回復させろ。会社には俺が言っとく。絶対に食えよ、わかったな」
毎日見に来るからな、と念を押して、置きっぱなしだったコンビニの袋を手にとった。どうやら中身を冷蔵庫に入れていってくれるらしい。
「私も、今日はもう行くわ。しばらく東京にいるから。優衣に借りてた鍵、返さなきゃと思ってたけど、まだ預かってたほうがよさそうね」
理恵ものろのろと立ち上がる。沢木さんが靴を履いて玄関で待っていた。
「なあ」
「ん?」
「優衣……最後、どこにいたんだ?」
振り返った理恵がまた、顔を歪めて指差した。
「そこ。出窓の下。……なんだか眠ってるみたいだったわ」
この部屋での優衣の定位置。夜遅く帰ってくると、そこでうたた寝していることが、何度もあった。
二人が出て行った後、俺はベッドから降りて、出窓の下に寝転んだ。
優衣は最後、ここでなにを思ったんだろう……。
優衣の姿を思い浮かべながら、俺はそのまま目を閉じた。
「人の生き死になんて誰かに左右されるようなもんじゃない。自分のせいだなんて言えるのは、生きてる人間の驕りだよ」
淡々と語る言葉が昂りかけた心を落ち着かせてくれる。
それでも。俺は俺のせいだと思うことを止められない。
「昨日、お葬式が済んだわ。もう、骨だけになっちゃった」
しばらく黙り込んだあと、理恵がまたポツリ、ポツリと話し始めた。
葬儀は、中屋優衣として、身内だけでひっそりと行われたらしい。親族には誰にも、優衣が妊娠したことも、結婚したことも知らされないまま。
携帯を切ったままだった俺を心配して、理恵は葬儀が終わったあとすぐに東京へ引き返してきてくれた。
「もしかしたら仕事にはちゃんと行ってるかも、と思って会社に電話したんだけど」
こちらも連絡が取れずに困っていた沢木さんに繋がって、二人で一緒にここに来た。
「あなたまで死んでるのかと思った」
怖かった、と呟く理恵の目に、また涙が滲んだ。
俺は何も言えずに、ただ俯いて、理恵のすすり泣く声を聞いていた。
しばらく、誰もなにも喋らなかった。理恵の泣き声が落ち着くまで、沢木さんは黙って見守っていた。
理恵が落ち着いた頃、そろそろ帰るわ、と言って沢木さんが立ち上がった。
「とにかく、しばらくは仕事来なくていいから、ちゃんと食って体力を回復させろ。会社には俺が言っとく。絶対に食えよ、わかったな」
毎日見に来るからな、と念を押して、置きっぱなしだったコンビニの袋を手にとった。どうやら中身を冷蔵庫に入れていってくれるらしい。
「私も、今日はもう行くわ。しばらく東京にいるから。優衣に借りてた鍵、返さなきゃと思ってたけど、まだ預かってたほうがよさそうね」
理恵ものろのろと立ち上がる。沢木さんが靴を履いて玄関で待っていた。
「なあ」
「ん?」
「優衣……最後、どこにいたんだ?」
振り返った理恵がまた、顔を歪めて指差した。
「そこ。出窓の下。……なんだか眠ってるみたいだったわ」
この部屋での優衣の定位置。夜遅く帰ってくると、そこでうたた寝していることが、何度もあった。
二人が出て行った後、俺はベッドから降りて、出窓の下に寝転んだ。
優衣は最後、ここでなにを思ったんだろう……。
優衣の姿を思い浮かべながら、俺はそのまま目を閉じた。