あの日、俺が日本に帰ってきた日、理恵は夜まで優衣と一緒にいる予定だった。でも、その日にいきなり、予定が合わなくて会えないと思っていた、東京に住む友人から連絡があったらしい。
「今日の午後、時間が空いたから会おう、って。滅多に会えない子だし、夜にはまた予定があるから、って」
 行っておいでよ、と優衣が言ったらしい。心配しなくても部屋でおとなしく待ってる、夜になったらまた合流しよう。
 たった数時間、その間になにか起こるなんて、誰が想像できただろう。
 友人と別れたのが夕方、優衣と連絡を取ろうとしたけれど一向に電話に出ない。俺と一緒にいて気がつかないのかと思い、俺の携帯にかけても出ない。俺はその時はまだ、飛行機の中だった。
 どうしたんだろうと不安になりながら、アパートに戻ってきた理恵が見たのは、携帯を握ったまま倒れている優衣の姿だった。
「脳出血だったんだって」
 すぐに救急車を呼んだけど、妊婦だということで受け入れの病院側も手間取って、結局子供も優衣も間に合わなかった。
「私が、そばにいたら、きっと助かってた……」
 ごめんなさい、と弱々しく肩を震わせる理恵を、責められる人間なんていない。
 ぽろぽろ涙を流す理恵を見ながら、彼女は悪くない、ということだけは、はっきり思った。
「二時くらいに、着信入ってた。優衣から。俺に、助けてって言いたかったのかな」
 俯いていた理恵が泣きながら俺を見た。
 電話をかけたのが先だったのか、倒れたのが先だったのか。どちらにしろ、最後に助けを求めたのは俺に対してだったのに。
「俺のせいだな。優衣が死んだの」
 あの時優衣のお父さんが放った言葉は、真実だ。アメリカになんて行ってなければ。子供なんてできなければ。……初めから、俺なんかに関わらなければ。
「おじさんの言う通り、初めから俺なんかいなければ、こんなことにはならなかった」
「なんでそんなこと言うの? ガクのせいなんてそんなこと」
「ホントのことだろ。俺がいなければ今頃、お前と一緒に平和に学生やってたはずなんだ」
 子供だなんだって悩むこともなく、大好きな両親と喧嘩することもなく。
「俺のせいなんだ」
「違うよ」
「違わない」
「違うっ」
「……誰かのせいなんて、そんなもん考えたって仕方ねえやな」