俺はそのまま、ひたすら眠り続けた。ふと意識が戻ったり、ぼんやりとそのまま天井を見ていたりしたけれど、なんだか動く気になれなくて、結局ずっとベッドにいた。時間の感覚も失って、自分の輪郭が曖昧になっていくような気がする。考えることも何かを思うことも放棄して、頭も体も全て空っぽになっていた。
 覚醒と夢の境目くらいのところでぼんやりとしていたら、玄関をドンドンドン、と叩く音がして、ついでガチャン、と鍵の開く音がする。
 優衣……?
 のろのろと起き上がろうとするけど、体に力が入らない。なんとか半身を起こしたところで、沢木さんのダミ声が響いた。
「お前、馬鹿かっ」
 ふらつく俺の体を支えて、壁にもたれかけさせる。
「水も飲んでねえんだろ! 理恵ちゃん、水っ」
 後ろには理恵までいた。何してんだろ……?
 沢木さんがペットボトルを受け取って、それを俺の口にあてがう。無理やり突っ込まれて、強引に傾けるものだから、飲み込みきれずに盛大にこぼしてしまった。
 水分が体中に染み渡って行く気がする。血が通って、体の輪郭がだんだんはっきりとしてくる。
「まだ飲めるか?」
 頷いて手を伸ばすと、沢木さんも安心したように一度頷いて、ペットボトルを渡してくれた。少しずつ傾けて、飲み込んでいくたびに、頭にかかった靄が薄くなっていった。
 二人がじっと、俺が水を飲むのを見守っている。時間をかけて全て飲みきると、ようやく思考が正常に戻ったような気がした。
「馬鹿! 心配したんだから、もう、馬鹿……」
 理恵が俺の足を叩きながら泣き出した。ぐしゃぐしゃに顔を歪めて、ひたすら拳を打ち付ける。弱々しくて足は痛くはなかったけど、その姿を見る心の方が痛かった。
「ごめん」
 久しぶりに出した声は掠れていた。
「まあ、無事でよかったわな」
 俺たちの様子を静かに見ていた沢木さんが、とりあえず食えそうなもんあるか、と差し出してくれた袋の中には、プリンやゼリーみたいな口当たりのよさそうなものと、ペットボトルが何本か入っていた。固形物は食べる気にならなかったので、スポーツドリンクを一本取り出す。
「いきなり連絡取れなくなって、俺たちも心配してたんだ。理恵ちゃんが会社に電話してくれなかったら、ドア蹴破って突入するところだったぜ」
 しっかし寒いなこの部屋、と呟きながら沢木さんがエアコンのリモコンを探す。そういえば寒いな、と今更ながら思った。
 落ち着いた理恵が温かいお茶を入れてくれた。気付かないうちに冷え切っていた体が温まる。それと同時に、考えないように心の奥に押し込まれていた事実が、ゆっくりと現れてくる。
「優衣は、死んだんだよな?」
 蚊の鳴くような小さな声しか出なかったけど、狭い部屋には残酷なくらい響き渡った。
「……そうよ」
 それから理恵が、ゆっくりと話しだした。