そういえば、この部屋の中自体が異常に寒い。真冬だからって、なんでこんなに寒いんだろう。こんなところに寝かせて、お腹の子供に何かあったらどうしてくれる。
 そう思って、ふと優衣の腹部に目を向ける。せり出して仰向けになるのが辛そうだったくらいなのに、今はぺったんこになっていた。
 何かがおかしい。子供はどうした? 優衣はどうして、目覚めない?
「子供は?」
 俺はよくわからないまま、ただ呟いただけだった。けれど、その問いに答えるように、後ろから声がした。
「ごめんなさい!」
 振り向くと、理恵がいた。
 いつの間にそんなところにいたんだろう。なんで泣いてるんだろう。
「私がついてるって言ったのに、任せてって言ったのに……ごめんなさい……」
 泣き崩れて俺にすがりつく理恵の、謝る意味がわからない。
「なに、言ってる……?」
 わからないまま理恵を支えようとした俺の手を、誰かがぐいっと引っ張った。
「理恵に触るな」
 そのまま床に叩きつけられて、衝撃で耳に音が戻ってきた。
 誰かがすすり泣く声。優衣と理恵の、お母さん……?
「お父さん!? 何するの!?」
 理恵の叫ぶような声がする。
「こいつのせいで優衣は死んだんだ。二度と顔を見せるな。出て行け」
「ちょっと、何言ってるの!? ガクのせいじゃないじゃない、誰かのせいだって言うんなら、私のせいで」
「お前のせいじゃない。初めからこいつがいなければ、こんなことにはならなかった」
 二人が言い合うのをどこか遠くで聞きながら、優衣が死んだ、という言葉だけが、頭の中を回っていた。
 優衣が死んだ。
 優衣が、死んだ……?
 俺のせいで、優衣が死んだ?
 まだ理解できないでいる俺の襟を掴んで、おじさんが無理やり俺を立たせる。そのまま部屋の外まで引きずられて、無理やり追い出された。
「一刻も早く、ここからいなくなってくれ」
 後ろで理恵が何かを叫んでいるのに構わずに、どん、と部屋の扉を閉めた。
 俺はのろのろと立ち上がって、たった今走ってきた道をゆっくり引き返した。
 優衣が、死んだ。
 優衣が、死んだ……。