「外ですか? 店内の雰囲気がわかるような写真で、って思ってるんですけど」
「雑誌に使う写真はちゃんと店で撮るから大丈夫。大分緊張もほぐれてきたみたいだし、ギャラリーなしでちょっとカメラ慣れしてもらおうかなって思って。今日珍しくいい天気だし」
「でも、今日の服、春物なんで、外はめちゃめちゃ寒いと思いますよ?」
 容子さんが選んでくれた服は春らしいふわっとした素材のワンピースで、足元はパンプス。確かに、二月の風に対抗できるほどの防寒力は無さそうだけど。
「私なら大丈夫です。寒さには強いので」
 せっかく私のために言ってくれているのに、寒いからって嫌がるわけにはいかない。
 容子さんはいい顔はしなかったけれど、短い時間なら、と渋々了承してくれた。風邪をひく前に戻ってきてくださいよ、と心配顔で見送られて、桐原さんと二人、外に出る。
 平日の昼間だけれど、店の前にはちらほら人通りもあった。こんなところで撮影会なんてしだしたら店の中よりも視線が気になりそうだ、と不安に思っていると、桐原さんが歩き始めた。
「ちょっと移動しよう。そこの川沿い、春は人だらけだけど、冬はほとんど無人だから」
 お店の裏側、一本道を挟んで入り組んだ道を抜けたところに、大きな川が流れている。両側に桜並木が植えられていて、春になればお花見にたくさんの人が訪れる場所だった。
 少し後ろをついていくと、桐原さんがいろいろ話しかけてくれる。
「ずいぶんようちゃんに気に入られてるみたいだね」
「容子さんのアシスタント時代からお世話になってて、カットモデルとかしてたんです。なんだかお姉ちゃんみたいな感じ」
「確かに、可愛い妹がほっとけないって感じだな」
 笑うと少し目元にしわが寄って、もともと優しげな顔がもっと親しみやすくなる。さりげなく車道側を歩いてくれているし、歩幅も合わせてくれている。
 大人の男の人って、こんな感じなんだな。
 今まで年上の男の人なんて、お父さんか学校の先生くらいしか関わったことがなかったから、ちょっとだけ意識してしまう。