一人で過ごす一ヶ月、俺はがむしゃらに働いた。少しでもお金を貯めたくて、学生向けの単発バイトを夜中に掛け持ったりした。体力的にはきつかったけど、何もしないよりは焦りは少し解消できた。優衣とは電話で話すだけだったけど、日に日に元気を取り戻していくのがわかった。お父さんとも子供の話ができるようになった、と嬉しそうに話すのを聞いて、俺も心からほっとした。
九月に入り、迎えにいった優衣は、手で押さえるとお腹の膨らみがわかるようになっていた。つわりもほとんど収まり、気分も落ち着いたようで、辛い時期を家族のもとで過ごせたのはやっぱり正解だったと思う。
東京に戻って、俺の狭いアパートでの二人暮らしが始まる。優衣のアパートはおじさんが九月いっぱいまで契約してくれたので、一ヶ月かけてゆっくり引き払う予定だ。
また遊びに行くから、と笑う理恵と、なにかあったらすぐに連絡してね、と心配そうにするおばさんに頭を下げて、二人で歩き出す。おじさんは家の中にはいたようだけど、結局出てきてはくれなかった。まだまだ俺には信頼が足りないと実感させられたけど、焦っても仕方がない。
優衣の希望で、すぐに駅に向かわずに近くの川に寄り道する。天気が良くて、水際の風が気持ちよかった。優衣が機嫌よく、つないだ手をぶんぶん振り回す。子供みたいな仕草に笑うと、優衣が俺の顔を覗き込んだ。
「一ヶ月、寂しかった?」
「……少し」
正直に頷くと、優衣がふふふ、と笑って足を止めた。向かい合って、両手をつなぐ。
「これからはずっとそばにいるからね。末永くよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
おどけてぺこんと頭を下げる優衣に合わせて、俺も頭を下げる。同時に顔を上げたら目が合って、どちらからともなく笑いながら唇を寄せた。
「ねえ? 私たちが初めて話をした時のこと、覚えてる?」
「うん。ここでいきなりナンパされた」
ナンパなんかしてないもん、と頬をふくらませて、優衣がつないでいた手を離してふらりと歩き出す。
「あの時、結構勇気出したんだから。話しかけるチャンスなんて滅多になかったし」
ゆっくりと風に吹かれながら歩く優衣の後ろを、俺もまたゆっくりついていく。
「ガクさあ、初めちょっとめんどくさいと思ったでしょ」
「……ばれてた?」
九月に入り、迎えにいった優衣は、手で押さえるとお腹の膨らみがわかるようになっていた。つわりもほとんど収まり、気分も落ち着いたようで、辛い時期を家族のもとで過ごせたのはやっぱり正解だったと思う。
東京に戻って、俺の狭いアパートでの二人暮らしが始まる。優衣のアパートはおじさんが九月いっぱいまで契約してくれたので、一ヶ月かけてゆっくり引き払う予定だ。
また遊びに行くから、と笑う理恵と、なにかあったらすぐに連絡してね、と心配そうにするおばさんに頭を下げて、二人で歩き出す。おじさんは家の中にはいたようだけど、結局出てきてはくれなかった。まだまだ俺には信頼が足りないと実感させられたけど、焦っても仕方がない。
優衣の希望で、すぐに駅に向かわずに近くの川に寄り道する。天気が良くて、水際の風が気持ちよかった。優衣が機嫌よく、つないだ手をぶんぶん振り回す。子供みたいな仕草に笑うと、優衣が俺の顔を覗き込んだ。
「一ヶ月、寂しかった?」
「……少し」
正直に頷くと、優衣がふふふ、と笑って足を止めた。向かい合って、両手をつなぐ。
「これからはずっとそばにいるからね。末永くよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
おどけてぺこんと頭を下げる優衣に合わせて、俺も頭を下げる。同時に顔を上げたら目が合って、どちらからともなく笑いながら唇を寄せた。
「ねえ? 私たちが初めて話をした時のこと、覚えてる?」
「うん。ここでいきなりナンパされた」
ナンパなんかしてないもん、と頬をふくらませて、優衣がつないでいた手を離してふらりと歩き出す。
「あの時、結構勇気出したんだから。話しかけるチャンスなんて滅多になかったし」
ゆっくりと風に吹かれながら歩く優衣の後ろを、俺もまたゆっくりついていく。
「ガクさあ、初めちょっとめんどくさいと思ったでしょ」
「……ばれてた?」