優衣と一緒に東京に帰ることができたのは、結局一ヶ月後のことだった。
 あの後、おじさんと入れ替わるように理恵がやってきて、泣いている優衣を見てぎょっとする。疑いの目を俺に向けるので事情を話すと、大きくため息をついた。
「お父さんも、素直じゃないっていうか。優衣が倒れた時、一番焦ってたのはお父さんだったのよ」
 なんとか落ち着いて泣き止んだ優衣が、傍らに座った理恵を見やる。
「そうなの?」
「そうよ、一番顔色失ってたわ。引っ込みつかなくなっちゃってただけで、ずっと心配してたみたい。昨日の夜だって家に帰ってもずっとそわそわしてたもの。今日も来るなんて言ってなかったし……きっと心配過ぎて、我慢できなくて顔だけ見に来たんじゃないの? まさかガクがいるとは思ってなかっただろうけど。まあともかく、お許しが出たってことでいいのよね?」
 ほんとめんどくさい人よね、と理恵が顔をしかめてぼやいた。
 三人で話をしていると、さっき部屋を案内してくれた看護師がやってきて、血圧を測っていった。それと入れ替わるように、今度は二人のお母さんがやってきた。
 二人に面差しが良く似ている。上品な眉をひそめ、俺の顔を訝しげに見た。挨拶をすると複雑な表情を浮かべたけど、理恵からもうお父さんには会って話はついたって、と聞くと、少し安心したように表情を緩めた。
「お父さんは、なんて?」
「まだきちんと認めてもらったわけじゃないんです。好きにしろ、と言われました。これからどれだけ時間がかかっても、頑張って認めてもらいます」
 自分にも言い聞かせるようにはっきりと言葉にする。それを聞いて、戸惑いながらも俺を信じてくれたようだった。
「優衣を、よろしくお願いします」
 そう深く頭を下げるおばさんに対して、こちらこそよろしくお願いします、と頭を下げ返す。その様子を見て、優衣もやっと、笑顔を見せた。
 その日の夕方には退院の許可が出た。ただし、家に帰っても絶対安静を言い渡されて、優衣はもうしばらく実家で過ごすことになった。理恵やおばさんは、子供が産まれるまでいるようにと勧めたが、もう頼るわけにはいかないから、と優衣がきっぱりと断った。それでも結局一ヶ月も滞在することになったのは、ひとえにおばさんが心配したからだった。せめてつわりがひどい時期くらいはそばにいさせて、と言われて、優衣にとっても嬉しかっただろうし、心強かっただろう。