「二人できちんと話して、ちゃんと認めてもらおう」
「ん……」
 安らいだ様子の優衣を見て、ずっと気を張っていたのだろうとかわいそうになる。そっと頭を撫でると、ほっとしたように力を抜いた。
 その時、病室のドアが開いた。咄嗟に離れて立ち上がる。
 カーテンの影から顔を出したのは、優衣のお父さんだった。ちらりと一度睨み付けただけで俺の存在は完璧に無視して、優衣のそばまで歩み寄る。
「目が覚めたのか」
 顔を合わせて話したことはなかったけど、姿を見かけたことなら何回かある。厳格な父親像をそっくりそのまま体現したような人で、いつも険しい表情をしているのが印象的だった。
「桐原といいます」
 話しかけても、俺の方を見ようとしない。
「挨拶が遅れてすみません」
「……気分はどうだ」
 かたくなに俺を無視する態度に、お父さん、と優衣が非難するような声をあげる。
「優衣さんとの結婚を認めてくれませんか」
 お願いします、と頭を下げても、何も反応が返ってこなかった。頭を下げたまま、しばらく居心地の悪い沈黙が続く。優衣も言葉を挟まず、成り行きを見守っている。
「君に優衣を任せる気はない」
 ようやく出た言葉は、予想通り否定的なものだった。
 それから幾分か柔らかな声で優衣の名を呼ぶ。
「優衣。お前がどうしても子供を産みたいのなら、もう止めない。産みなさい。ただし、父さんたちのもとで育てること。結婚は認めない。それが条件だ」
 優衣が息を呑み、俺は思わず頭をあげた。
「待ってください、子供の父親は僕です。二人とも必ず、僕が幸せにします」
「君に何ができる? 金もない、地位もない、苦労するのは目に見えてる。何を根拠に幸せにするなどと言えるんだ?」
 言い返せずに一瞬怯んだけど、ここで引き下がるわけにはいかない。その場で膝を折って、もう一度頭を下げた。
「確かに苦労はかけると思います。でも、何をしてでも守ります。お願いします、僕に家族を守らせてください」
「頭を下げればなんだって通ると思うな。見苦しいから起きなさい」
「待ってよお父さん、なんで私の幸せをお父さんが決め付けるの?」
 涙目になった優衣がベッドから降りて、俺の隣に膝をついた。
「お願い、私たちを信じて。絶対幸せになってみせる。だから見守ってください」
 俺と同じように頭を下げる優衣の手を、おじさんが慌てたように引っ張った。