少し青ざめてはいたけど眠る顔は穏やかで、規則正しく胸が上下していた。力が抜けた俺は枕元に置いてあった椅子によろよろと座り込んだ。
布団の上でゆるく組まれていた優衣の手をそっと外し、片方を自分の両手で握り込む。手のぬくもりが伝わって、緊張がゆるゆると溶けていった。
改めて見た優衣は、少し痩せたようだった。頬の丸みが少し削げて、元の柔らかさを知っている俺から見たらなんだか痛々しい感じがする。まだ、最後に会った時から一週間ちょっとしか経っていないのに、すごく長い間離れ離れだったような気がしてしまう。
本当にこのまま、子供を産んでもらっていいのだろうか。
きちんと覚悟を決めたはずだったのに、また揺らぐ。
俺が沢木さんのように、作品を認められて自分の腕にお金を払ってもらえるような人間だったら、優衣の父親もここまで反対しなかっただろう。優衣がちゃんと大学を卒業して、俺も自分に自信が持てるまで、家族なんて持つべきじゃないんだろうか。何度も自分への問いかけを繰り返して、それでもそうやって迷うたびに、優衣の中にいる命の存在を思い出す。
もう、いるんだ。小さいけれど、ちゃんと形を持って。
しっかりしなければ、と彼女のまだ目立たない腹部を見て思う。彼女とこのお腹の中の命を、守る責任が俺にはある。
知らず知らず手に力がこもってしまって、優衣がかすかに身じろいだ。慌てて力を緩めるけど、そのまま優衣はゆっくりと目を開けた。
「……ガク?」
俺を見つけて掠れた声で呟く。
「ごめん、起こしちゃったな」
謝ると、ふるふると首を横に振って、空いている方の手を持ち上げて俺の頬に触れた。
「本物だ」
「え?」
「夢、見てたの。その続きかと思っちゃった」
そのまま体を起こし、俺の肩にもたれかかった。
「心配させちゃったね。ごめんなさい」
「俺の方こそ、不安な時にそばにいなくてごめんな」
優衣の負担にならないようにそっと抱きしめると、優衣も俺の背中に手を回した。しばらくそのままお互いの鼓動を聞いていた。
「お父さん、一人じゃ説得できなかった」
「うん。理恵に聞いた。辛かっただろ」
口ではいろいろ言っているけど、理恵も優衣も両親のことを大事に思っているのはすごく伝わる。大切な家族に理解してもらえないこの状況は、ひどく彼女を傷つけているに違いない。
布団の上でゆるく組まれていた優衣の手をそっと外し、片方を自分の両手で握り込む。手のぬくもりが伝わって、緊張がゆるゆると溶けていった。
改めて見た優衣は、少し痩せたようだった。頬の丸みが少し削げて、元の柔らかさを知っている俺から見たらなんだか痛々しい感じがする。まだ、最後に会った時から一週間ちょっとしか経っていないのに、すごく長い間離れ離れだったような気がしてしまう。
本当にこのまま、子供を産んでもらっていいのだろうか。
きちんと覚悟を決めたはずだったのに、また揺らぐ。
俺が沢木さんのように、作品を認められて自分の腕にお金を払ってもらえるような人間だったら、優衣の父親もここまで反対しなかっただろう。優衣がちゃんと大学を卒業して、俺も自分に自信が持てるまで、家族なんて持つべきじゃないんだろうか。何度も自分への問いかけを繰り返して、それでもそうやって迷うたびに、優衣の中にいる命の存在を思い出す。
もう、いるんだ。小さいけれど、ちゃんと形を持って。
しっかりしなければ、と彼女のまだ目立たない腹部を見て思う。彼女とこのお腹の中の命を、守る責任が俺にはある。
知らず知らず手に力がこもってしまって、優衣がかすかに身じろいだ。慌てて力を緩めるけど、そのまま優衣はゆっくりと目を開けた。
「……ガク?」
俺を見つけて掠れた声で呟く。
「ごめん、起こしちゃったな」
謝ると、ふるふると首を横に振って、空いている方の手を持ち上げて俺の頬に触れた。
「本物だ」
「え?」
「夢、見てたの。その続きかと思っちゃった」
そのまま体を起こし、俺の肩にもたれかかった。
「心配させちゃったね。ごめんなさい」
「俺の方こそ、不安な時にそばにいなくてごめんな」
優衣の負担にならないようにそっと抱きしめると、優衣も俺の背中に手を回した。しばらくそのままお互いの鼓動を聞いていた。
「お父さん、一人じゃ説得できなかった」
「うん。理恵に聞いた。辛かっただろ」
口ではいろいろ言っているけど、理恵も優衣も両親のことを大事に思っているのはすごく伝わる。大切な家族に理解してもらえないこの状況は、ひどく彼女を傷つけているに違いない。