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 驚いたような、どこか苛立ったような目で、桐原さんが見下ろしている。
「自分が、何言ってるのかわかってる?」
 感情の籠らない声。軽蔑されただろうか。
 でも、ここで怯むわけにはいかない。
「なんとも思ってない人とでもそういうことできるんですよね? だったら私とでも問題ないはずです」
 これを伝えるために、今日ここに来たんだから。
「私は本気です。子供の恋愛ごっこなんかじゃない」
 ただの憧れだなんて決めつけられて、そのまま離れていかれるなんて嫌だ。
「それを信じてもらえるんだったら、なんだってします」
 無言で見つめてくる、その圧迫感に負けないように、必死に顔を上げていた。ここで俯いたら負けだ。ただの子供の強がりになってしまう。
「なんだって、なんて簡単に言わないほうがいい」
 桐原さんの声が、どんどん平坦になっていく。
「簡単になんて言ってません。本当になんでもやるつもりです」
 あの日からずっと考えてた。子供じゃなくて一人の女として見てもらうにはどうすればいいか、考えて決めた答えがこれだった。
「じゃあ」
 一歩も引く気がない私に、桐原さんが静かに言った。
「今、ここで脱いで」
 予想していなかった言葉に、一瞬思考が止まった。
「そうだな、ここで全部脱いで、ヌードでも撮らせてもらえたら信じるよ」
 言葉の内容とは裏腹に、どこまでも冷静な声だった。私の周りの空気を凍りつかせてしまいそうな冷たさ。
 拒絶するように、声と同じ温度の視線を向けられて、身動きが取れなくなる。
 何か、言わなきゃ。でも、声が出てこない。
 私が身じろぎ一つできずにいると、桐原さんが静かに動いた。持っていたカップを置いて、私に近づいてくる。
 思わず、びくりと大げさなくらい体が震えた。
 怖い、と思った。
 そんな私の横を通り抜けて、桐原さんはドアに近寄る。そのまま無言で鍵を閉めて、ブラインドをおろした。それからまた元の場所に戻って、今度は足元に置いてあったバッグからカメラを取り出す。
 無言で。淡々と。私から逃げ道を奪っていく。
 カメラを手にした彼は、また本棚にもたれるようにしてこちらを見た。
「できる?」
 どこまでも静かに。私に思い知らせるように。
 お前の覚悟なんてそんなものだ、と、音を持たない言葉を投げつけられているような気がした。
 ……違う。
 悔しい、と思った。どうしてそんなにかたくなに人を拒絶するの?
 私の気持ちを自分の尺度に当てはめて、簡単にはねつけないで。