全くその通りで、だから理恵が本気で話すと苦手なんだ、とまた逃げたくなる。なまじ頭がいいせいで、的確に人の心を抉ってくる。この前泣いてた時のしおらしさはどこいったんだ。
「私のことは許せても、自分のことは許せない? それとも、私のことも許してくれてるフリをしてるだけ?」
 静かな声に追い込まれる。許すとか許さないとか、もうそんなのどうだっていいじゃないか。考えたくない。理恵は悪くない。俺が悪い。それでいいだろ。
 ……逃げてるんだ、そんなこと俺にだってわかってるよ。
 黙ってしまった俺にため息をついて、理恵も黙り込んでしまった。しばらく沈黙が続く中、ジュースを飲む音だけが響く。
 飲み終わった理恵が、缶を置くと一枚の紙を差し出してきた。特集ページのゲラのようで、何気なく受け取って見てみると、日南子ちゃんがカフェのカウンターでこちらを見て微笑んでいた。
「短期間で可愛くなったと思わない? 見るたびに変わっていくから、いつも驚かされるわ。それ、全部あなたのためだっていうのは、わかってるわよね?」
 雰囲気がますます柔らかくなって、前より女っぽくなった。真っ直ぐな目に、優しさが加わる。
「自分のために、どんどん綺麗になっていく女の子を見て、なんとも思わない? だったらあなた精神的不感症よ」
 俺の手からゲラをさっさと奪い取って、大事そうにデスクにしまう。こんなもの見せて、俺にどうしろっていうんだ。
「付き合わなくてもいい。でも、ヒナちゃんにだけはきちんと向き合ってあげて。傷つけたくないとか変な気を遣ってごまかすんじゃなくて、ちゃんと本音で」
「もう俺に近寄ってきたりしないだろ」
 走り出す前の真っ青な顔を思い出す。今にも泣き出しそうな、悲痛な表情。
 ――ああ、でも、あの子はまだ泣いてなかったな。
「私はそうは思わないけど。まあ、あの子がまたぶつかってきてくれたら、の話よ」
 私は彼女に期待してるの、と言い捨てて、空き缶を俺に押し付けて帰っていった。
 前にもこんなことあったな、と一人だとだだっ広い部屋を眺める。
 逃げずに向き合え。言い訳をするな。
 ほんとにあいつの言葉はいちいち心に突き刺さる。相手が俺な分、遠慮もない。
 俺は、彼女のことを、どう思っているんだろう。
 ただ優衣に重ねているだけなのか。それとも、彼女自身に惹かれているのか。
 本音を伝えようにも、自分の気持ちだってよくわからないのに、何を伝えればいい?
 いくら考えても、一体自分がどうしたいのかなんてわからないままだった。