「すみません……」 
 全っ然、上手くできない。一日かけても、ちゃんと撮れなかったらどうしよう。
 落ち込む私に容子さんが明るく声をかけた。
「だいじょぶですよう、時間はいっぱいあるし。ちょっと一息入れましょう! ヒナちゃんがこの前気になってるって言ってたお店のコーヒー、取り寄せてみたんで飲みません?」
 その提案に便乗するように桐原さんが手を挙げる。
「俺も飲みたい」
「ガクさんはコーヒーの味なんてわかんなくなるんだからダメです。インスタントです」
「ようちゃんって俺に冷たいよね?」
「気のせいですよ。愛情の裏返しです」
 なんだか桐原さんと容子さんの会話って漫才みたい。思わずくすり、と笑うと、すぐ横でパシャ、とシャッターが切られる音がした。
「そうそう、そんな感じで大丈夫」
 いつの間にかカメラを構えていた桐原さんがレンズの向こうで笑う。
「周りに他の人がいると緊張するよね」
「これでも人数抑えてあるのよ?」
 桐原さんが鏡の前の椅子に腰を下ろして、中屋さんがその隣に座る。
「少人数でも他人に見られてると緊張するの。理恵の図太さと一緒にしない」
「そこを上手く撮影するのがカメラマンの腕の見せどころでしょ」
 べーっと中屋さんが舌を出した。みんな仕事上の付き合いというよりは、友達みたいに仲がいい。
 そこにコーヒーのいい香りを漂わせて、容子さんが戻ってきた。
「夫婦喧嘩は他所でやってくださいね。はい、コーヒーです。ヒナちゃん、ミルクだけでいいんでしたよね?」
 言いながらそれぞれにカップを渡していく。私の好みを完璧に把握してくれている容子さんは、いつもミルクだけを多めに入れて用意してくれる。
 中屋さんにはブラック、桐原さんには私と同じミルク入りらしいカップを渡して、なぜか桐原さんの前にだけ、一人分にしては大量の角砂糖が入ったトレイを置いた。
「お砂糖はセルフでお願いしますね、足りなかったら持ってきます」
 これだけあったら足りないはずないだろう、と思いながら見ていると、カップを受け取った桐原さんが角砂糖を次々と放り込んでいく。
 一個、二個……え、三個、四個??