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読者モデルのお仕事の二回目の依頼が来た。街中のカフェの特集で、最近できたお店を何箇所か訪れて、お茶しているところを撮影するというもの。今回は撮影は桐原さんではなくて、初めて会う人だ。理恵さんは取材担当として一緒に行ってくれるけど、桐原さんみたいに自由な感じではないだろうし、ちゃんと気を引き締めていかなくちゃ。
その日はみんなで一台の車で移動。直接家まで迎えに来てくれる、ということで外に出て待っていると、見覚えのある白い車が止まって、助手席から理恵さんが顔を出した。
「おはよう、日南子ちゃん。後ろ乗って」
挨拶を返して車に乗り込むと、運転席に座っていた男の人が振り向いた。
「今日の撮影担当の沢木です。よろしく」
大きな人だなあ、っていうのが第一印象だった。座っているからはっきりはわからないけど、身長だけなら桐原さんと一緒くらい。でも、筋肉質でよく鍛えられている感じ。野性的、っていうか、ワイルドな雰囲気の人で、戦場カメラマンとか似合いそうだ。
「見てくれは怖いけど、性格は怖くないから安心して」
理恵さんがおどけて言う。
「がさつで適当だけど、女の子には優しいから」
「お前な、もっと言葉を選べ」
沢木さんが軽く理恵さんの頭をたたいて、理恵さんが、痛いわね、と笑う。お互いに遠慮がなくて、ただの仕事仲間よりもっと親密な空気が漂っていた。友達、というより、恋人同士のような。
じいっと二人の様子を見ていると、車を走らせ始めた沢木さんが苦笑いを浮かべた。
「ガクからなんも聞いてねえか」
きょとん、としてしまう。なんでいきなり桐原さんが出てくるんだろう。
「前にちらっと話したと思うけど、この人はガクの元先輩で写真の師匠。で、結婚するの、私たち。実は妊娠三ヶ月」
「え、そうなんですか? おめでとうございます!」
「最近たまに会ってる、って聞いてたから、私たちの話も出てるかと思ったんだけど」
あのあと私は、何度か桐原さんのスタジオを訪れていた。あんまり頻繁に訪れるのも迷惑だろうとは思うのだけど、すぐ顔が見たくなって、結局メールしてしまう。もちろん予定が合わなかったり、差し入れだけ渡してすぐに帰ることもあったけど、偶然の遭遇に頼るしかなかった時のじりじりした苛立ちと比べれば、気持ちの落ち着きが全然違った。
桐原さんはいつも仕事の手を止めて飲み物を用意してくれて、たまにおみやげ、と言っておすすめの店のお菓子を渡してくれた。甘党を自負してるだけあって、桐原さんがくれるお菓子はいつもレベルが高くて、結局私の方がいい思いをしてる気がする。
「会ってるって言っても、お菓子とか差し入れしてるだけなんで。おふたりの話なんて出ませんでした」
あいつあんまり人の話とかしないからなあ、と沢木さんが呟いた。師匠っていうだけあって、桐原さんのことをよく知っている口ぶりだった。
「日南子ちゃん、だっけか」
「はい」