別に変なものを撮っているわけではないから、堂々としていればいいはずなんだけど、提出する気がない写真も何枚か混ざっているのは事実で。
 優衣に似ている、と、手が勝手にシャッターを切っていた、数枚の写真。
 他の人が見たって、どの写真も取材のために撮ったものにしか見えないはずだ。理恵が見たって気付くかどうか。それなのに。
「これとこれ、先にそのままデータで送ってもらってもいいかしら? ちょっと見せたい人がいるの」
 滅多な人には見せないから安心して、といって示した写真は、見事にどれも、彼女と優衣を重ねて撮っていたものだった。
 内心驚きながら、嫌だとも言えず、わかりましたと頷く。
「今、理恵ちゃんから話を聞いてたんだけど」
 帰り支度をしながら瀬田さんが面白そうに笑う。
「あの子、次々に周りを味方につけちゃったみたいね。容子ちゃんしかり、理恵ちゃんしかり、リサちゃんしかり。もちろん私もだけど、外堀をどんどん埋められていってるじゃない。あなた、いつまでも躱しきれるかしら?」
「言ってる意味がよくわかりません」
 この人に言葉で挑んだって無駄なことはわかっている。聞きたくないことは理解できないふりをしておいたほうがいい。
「まあ、いいけど。なんだか面白くなりそうね」
 今でも十分楽しんでいそうだけどな。
「私はね、あなたに期待してるのよ? いつまでも地方紙で撮ってるような人じゃないと思ってる。もう一皮むけて欲しいの。あの子がきっかけになるんじゃないかしら」
「ご期待に添えられるかはわかりませんが」
 俺は別に、今のままで満足している。昔は賞でも取って、周りから認められたい、なんて偉そうに考えていた事もあったけど、今はそんな考えはなくなった。目の前にあるものを、クライアントの期待に添えるように撮っていく。それだけで楽しい。
「このままここで撮っていてもらったほうが、私としては助かるけど」
 じゃあ、データよろしくね、と言い置いて瀬田さんは帰っていった。
 姿が見えなくなると、無意識に入っていた力が抜けた。知らず知らず詰めていた息を吐く。
「あの人、なにをどこまで知ってるんだ?」
「私にもわかんない。優衣のことは知らないと思うけど……少なくとも私も遼一(りょういち)さんも言ってないわよ」
 でも、あの人の人脈と情報収集力は半端じゃないから、と理恵がため息をついた。