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 帰る前に編集部に立ち寄ると、先に戻っていた理恵と、今まで仕事をしていたのか瀬田さんが残っていて、部屋の明かりを一つだけつけて何かを話していた。
「お疲れさまです」
 忘れ物を取りに来ただけで、理恵がいるのはわかっていたけど、瀬田さんまでいるとは思わなかった。実を言うと、この人のことはあまり得意じゃない。仕事ができる人なのはわかるけど、変に鋭くて、心の中を全部見透かされているような気分になる。
「お疲れさま。あなたを待ってたの。カメラは?」
「車に置いてありますけど」
「じゃあ、持ってきて」
 当然のように命令される。
「持ってきてどうするんです? 今日撮った分しか見せられませんけど」
「それが見たいのよ。特にあの子の写真。あなた、また出さないつもりのものも撮ってるでしょ?」
 本当に食えない人だと思う。超能力かなんか使ってるんじゃないのか。
 前の時もそうだった。入稿したのはサロン内で撮った写真だけで、それで十分なはずなのに、なぜか他の写真も出せ、と言ってきた。俺は外に出す気なんかさらさらなかったのに、わざわざ事務所まで訪ねてきてデータを確認していった。
「見てどうするんです?」
「それはまだ決めてないわ。興味があるだけ」
 にっこりと、しかし断ることは許さない、とでもいうように促されて、渋々車まで取りに戻った。雑誌の仕事はありがたいし、契約してもらっている身としてはあまり強くも出られない。特にこの人は、敵に回すと厄介な気がする。
 カメラを手に編集部に戻ると、理恵が無言で、ごめん、と言うように目配せを寄越す。こっちも無言で気にするなと返しながら、どうぞ、と瀬田さんに手渡すと、勝手知ったる顔で、カメラを操作してデータを表示させた。
 最初の方は朝に回って撮った風景や商品の写真なので、特に見もせず送っていった。午後に撮ったぶん、特にあの子が写り始めるようになると、じっくり一枚一枚眺めていく。
 待っている間、なんだかものすごくいたたまれない気分になった。