帰りはまた桐原さんは別行動だった。まだ少し残って撮影していくという桐原さんに別れを告げて、リサさんと共に理恵さんの運転する車に乗り込む。
「ねえねえ、何話してたの? 浴衣可愛かったね、とか、そのアイス一口ちょうだい、とか、そういう甘ったるいのあった?」
 楽しそうに聞いてくるリサさんには申し訳ないけれど、ご期待に沿えるようなやり取りでは全くなかった。
「俺はやめとけ、みたいなことを、遠回しに言われました」
 素直に白状してさっきの会話を話すと、リサさんがぷうっと頬を膨らます。
「なにその大人ぶった態度! 子供だからってバカにしてる! 諦めなくていいからね、こうなったら絶対にガクさん落とすよ!」
 そう言って私よりリサさんの方が盛り上がってしまって、帰りの車中はひたすら恋愛テクニックの話をしていた。男の人は何をしたら喜ぶか、リサさんの経験に基づいて話してくれるんだけど、私にはどれも高度過ぎて、ただ曖昧に相槌を打つばかり。
 理恵さんがそれぞれ家まで送ってくれて、先にリサさんが降りた。連絡先を交換して、また会う約束をして別れる。後部座席に一人になって、思わずふうっと息を吐くと、運転席の理恵さんが笑った。
「ガクのことだけど、私もリサちゃんに賛成よ。あなたには諦めないで欲しい」
「でも全然、脈がないような気が……」
「そんなことないわ。あの人、脈がないような子はさらーっと受け流すだけだもの。今まで誰かに牽制したことなんてないんじゃないかしら」
 理恵さんは、桐原さんの歴代彼女のことも知っているのだろうか。
「いろいろと、昔のこともご存知なんですよね?」
「まあね、高校からの付き合いだから」
「そんな長く?」
 てっきり仕事上のお付き合いで仲良くなったんだと思ってた。桐原さんの過去に詳しいのも、なんでかなあってちょっと不思議だったけど、それだけ昔からの友達なら当たり前だ。
「言っておくけど、私の口からは何も話せないわよ?」
 私の言葉を先回りするように理恵さんが言った。……少しだけ、ほんの少しだけ、何か聞けるかな、なんて期待していたけど、やっぱりダメか。
「ちゃんと、ガクの口から聞いたほうがいいと思うわ。あなたになら話してくれる気がする」
「そうでしょうか?」
「ええ。あなたには期待してるの。言ったでしょ、あなたにならガクを変えられるかもしれない、って」
 そう言って、理恵さんが少し寂しげな顔で笑った。