先に準備を始めましょう、と容子さんに連れられてスタッフルームに行き、用意されていた服に着替えて、今度はセット面に移動する。着々と準備が整っていくにつれ、緊張がまた増してきた。腕がなる~とルンルンの容子さんとは対照的に、自分の顔がどんどん強ばっていくのがわかる。
「う~、なんだか逃げたくなってきた……」
「ヒナちゃん可愛いんだから、自信持てばいいんですよ。新しい自分、見てみたくないですか?」
「そりゃ、興味はありますけど、元が地味なのは変わりないというか」
「今日本中の女子を敵に回しましたよ、ヒナちゃん! 地味なんてとんでもない! すべすべ真っ白お肌とか~、ぱっちりおめめとか~、ふっくら唇とか……あ~、美少女いじるのって楽しい!」
 容子さんはいつも、女の子がどんどん可愛くなっていくのを見るのがすごく好きなんです、と言っていて、実際楽しそうだ。美容師という仕事は天職なんだろう。
 容子さんの手が自分の顔をどんどん変えていく様は、普段自分ではあまりメイクをしないから、すごく新鮮だった。春らしいパステルピンクのアイシャドーに、嫌味にならない明るい色のリップ、髪は軽く巻いていく。ふんわり柔らかい色合いのメイクとセットは、顔だけでなく全体の雰囲気まで優しく変えていった。
 よし、と容子さんの手が離れたとき、私はすっかり変身させられていた。鏡の中の自分は、普段の自分より五倍増しくらいにかわいい。
 容子さんもその出来栄えに、うんうん、と満足げに頷いた。それからきょろきょろ周りを見回して、後ろで控えていた中屋さんに尋ねる。
「ヒナちゃんは出来上がりだけど、ガクさんは?」
「まだ来てないけど……あ、あれじゃない?」
「うっかりカメラマンのご登場だ~」