着替えは部屋の方で、と、露天風呂付きの特別室に通された。広いお部屋からもお風呂からも海が一望できる。
 桐原さんたちには一度部屋を出てもらって、二人で浴衣に着替えた。髪、まとめてあげる、というリサさんの言葉に甘えて、お布団の上に正座する。
「浴衣着れるなんてラッキーだと思わない? いつもと違うヒナちゃんを見せれるよ」
 手早く髪を編み込みながら、リサさんがからかうように言う。
「うなじチラ見せで女度アップだよ」
「そういうのいいですから。お仕事ですよ?」
 そう言いつつ、全然仕事してる感じがしない。ほんとにリサさんと二人で旅行に来たみたいに、ただ遊んでるだけだ。
「いいのいいの、ガクさんの時はいっつもこんな感じ。適当にしてても雑誌に載ったらちゃんと可愛く撮ってくれてあるから心配しなくていいよ。基本的に好きにやらせてくれるから楽なんだ」
 中にはいちいちポーズ取らせる人もいるけど、めんどくさいんだよね、と顔をしかめる。
 お仕事なんだから、と構えていたのに、これでいいなんてちょっと拍子抜けだけど、変に緊張しないでいいからすごく助かる。理恵さんも、そういうのも考えて桐原さんをあててくれたのかな。
 はい、できあがり、と渡された鏡を見ると、サイドを編み込んで後ろをお団子でまとめてあった。簡単そうにやってたけど、私には絶対できない。
 部屋の外から、もういいかしら、と理恵さんから声がかかる。大丈夫です、と慌てて返事を返すと、ふすまが空いて理恵さんがひょい、と顔を出した。
「あら、かわいい。似合ってるわね」
 褒められて、照れながら礼を言うと、リサさんがチェシャ猫みたいに笑いながら、理恵さんの後ろにいた桐原さんに声をかけた。
「ガクさんもー。ヒナちゃん、可愛いでしょ?」
「リサさん!」
「うん、可愛い可愛い。じゃあそのまま寝転がって話ししててくれる?」
「なにそれ、適当!」
 むくれながら、言われた通りにお布団の上に寝転んだ。
「リサさん、そういうのいいですってば」
 私も真似して寝転んで、部屋の隅からカメラを向けている桐原さんを気にしながら小声で抗議しても、リサさんは知らん顔だ。
「だって照れてるところも可愛いんだもん。ほらー、笑顔笑顔。お仕事中ですよ~」
 ぷに、とほっぺたをつままれて、ちょいちょいっと引っ張られる。悪気なんか全然ないリサさんに怒る気も失せて、お返しに私もほっぺたをつまんだ。お互いにつまみ合う格好になって、なんだかおかしくて同時に吹き出して、そのまま向かい合って笑いころげる。