わいわい騒いでいたおかげであっと言う間に二時間が過ぎ、途中で少し早目の昼食を挟みつつ、ロケ地の旅館に着いた。
車の中で簡単に理恵さんが説明してくれた本日の予定は、ここで部屋の中や館内ではしゃぐ姿を撮影したあと、近くの硝子工房とジェラートのお店を回る流れ。
ロビーには、先に来ていた桐原さんが、旅館の人らしい男の人と話をしながら待っていた。先に旅館の人がこちらに気づき、私たちに向かって会釈をする。
理恵さんがその人に頭を下げ、打ち合わせを始めると、桐原さんがこちらに視線を向けた。久しぶり、と声をかけてくれて、それだけで嬉しくて顔が緩みそうになる。
「読者モデル、引き受けたんだ。理恵に話は聞いてたけど、正直引き受けると思わなかった」
「ホントは私も、自分に務まるのかな、って思ったんですけど。後悔しないようにやりたいことをやったほうがいい、って言ってくれたじゃないですか」
「……俺?」
少し驚いた桐原さんに、頷いてみせる。
あの夜、彼が言ってくれた言葉に、背中を押されたのは事実。私に何ができるかわからないけれど、やれることはやってみよう、と思った。
「ご迷惑かけると思いますけど、よろしくお願いします」
頭を下げる私に向かって、桐原さんは笑って頷いてくれた。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
横でにやにや見ていたリサさんも、会話に加わる。
「リサもいますよー。ガクさん、お久しぶりです」
「久しぶり。学校は順調?」
「うん。卒業制作のテーマも決まったし。最後にリサの作品撮りしてくれるって話、忘れてないよね?」
「もちろん。できたら連絡してよ」
かっこいい会話だなあ、と思う。ものを作る人同士、通じるところもあるんだろうな。
打ち合わせを終えた理恵さんと旅館の担当者さんがやってきて、まずはフロントの一角の浴衣置き場に案内される。浴衣を選ぶところから撮影するらしい。
色とりどりの柄の浴衣がたくさん並んでいて、さっそく手に取りかけたリサさんを見て、桐原さんが困ったように声をかける。
「リサちゃんフライングしないで。ここも撮るんだから」
そう言って慌ててカメラを準備し始める桐原さんにはお構いなしに、リサさんはマイペースに浴衣を見ている。
迷って桐原さんを見ると、カメラを構えながら苦笑して、手でどうぞ、と示した。
「普通にはしゃいでてくれればいいよ」
あんまりこっち気にしないで、と言われて、じゃあ、と私も選び始める。
「ヒナちゃん、これかわいくない?」
リサさんは淡い紫の地に白の小花が散った浴衣を私に当てて、満足そうに頷いた。
「ヒナちゃん、清楚系が似合うよね。帯はこの色かな」
素早く帯も選んで渡してくれた。デザイナー志望なだけあって、センスは抜群だ。
車の中で簡単に理恵さんが説明してくれた本日の予定は、ここで部屋の中や館内ではしゃぐ姿を撮影したあと、近くの硝子工房とジェラートのお店を回る流れ。
ロビーには、先に来ていた桐原さんが、旅館の人らしい男の人と話をしながら待っていた。先に旅館の人がこちらに気づき、私たちに向かって会釈をする。
理恵さんがその人に頭を下げ、打ち合わせを始めると、桐原さんがこちらに視線を向けた。久しぶり、と声をかけてくれて、それだけで嬉しくて顔が緩みそうになる。
「読者モデル、引き受けたんだ。理恵に話は聞いてたけど、正直引き受けると思わなかった」
「ホントは私も、自分に務まるのかな、って思ったんですけど。後悔しないようにやりたいことをやったほうがいい、って言ってくれたじゃないですか」
「……俺?」
少し驚いた桐原さんに、頷いてみせる。
あの夜、彼が言ってくれた言葉に、背中を押されたのは事実。私に何ができるかわからないけれど、やれることはやってみよう、と思った。
「ご迷惑かけると思いますけど、よろしくお願いします」
頭を下げる私に向かって、桐原さんは笑って頷いてくれた。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
横でにやにや見ていたリサさんも、会話に加わる。
「リサもいますよー。ガクさん、お久しぶりです」
「久しぶり。学校は順調?」
「うん。卒業制作のテーマも決まったし。最後にリサの作品撮りしてくれるって話、忘れてないよね?」
「もちろん。できたら連絡してよ」
かっこいい会話だなあ、と思う。ものを作る人同士、通じるところもあるんだろうな。
打ち合わせを終えた理恵さんと旅館の担当者さんがやってきて、まずはフロントの一角の浴衣置き場に案内される。浴衣を選ぶところから撮影するらしい。
色とりどりの柄の浴衣がたくさん並んでいて、さっそく手に取りかけたリサさんを見て、桐原さんが困ったように声をかける。
「リサちゃんフライングしないで。ここも撮るんだから」
そう言って慌ててカメラを準備し始める桐原さんにはお構いなしに、リサさんはマイペースに浴衣を見ている。
迷って桐原さんを見ると、カメラを構えながら苦笑して、手でどうぞ、と示した。
「普通にはしゃいでてくれればいいよ」
あんまりこっち気にしないで、と言われて、じゃあ、と私も選び始める。
「ヒナちゃん、これかわいくない?」
リサさんは淡い紫の地に白の小花が散った浴衣を私に当てて、満足そうに頷いた。
「ヒナちゃん、清楚系が似合うよね。帯はこの色かな」
素早く帯も選んで渡してくれた。デザイナー志望なだけあって、センスは抜群だ。