「そうね、みんな基本的に下の名前で呼んでるし。理恵でいいわよ?」
 本人からそう言われたら、名字にこだわる意味もない。
「じゃあ、理恵、さん」
「はい」
 理恵さんがちょっと嬉しそうに返事してくれた。
「リサは呼び捨てでいいよ?」
「リサさんはリサさんで。私のほうが年下なんだし」
 ふーん、とつまらなさそうにして、それからにやっと笑う。
「で、ガクさんはガクさんだよ?」
「いや、それもちょっと」
 男の人を下の名前で呼ぶのは、私にはハードルが高すぎる。そういうと、ヒナちゃんって超マジメ~、とリサさんが笑った。
「で? どこが好きになったの?」
 話が逸れた思っていたのに、また元の方向に戻されてしまった。どこ、と言われても、自分でも本当に好きかどうかさえはっきりわかっていないのに。
「優しいところ?」
「まあ無難な答えだよね。他には?」
「んー、じゃあ、大人なところ?」
 答えようとすればするほど無難な答えしか出てこない。
「大人なところかあ。確かに、付き合ったらいろいろ教えてくれそうだよね。セックスも上手そうだし」
「へっ?」
 思わず変な声が出てしまった。そんな観点など一ミリもなかった私には、いきなりそんな話題を出されてもついていけない。
「リサさあ、手フェチなんだよね。撮影してると、手元がどうしても目に入るじゃん。リサ、ガクさんの手、好きなんだよねえ。指長いし、ちょっとゴツゴツしてて男っぽいっていうか、あの指でかき回されたら超キモチ良さそうじゃない?」
「かき回すってなにをですか?」
「え、だからあ」
 ごにょごにょと、リサさんが耳元でなにかを呟いた。ワンテンポ遅れて、私もおぼろげに理解する。
「ってええええ?」
 漫画でしか見たことのない場面を思わず想像しかけて、慌てて頭から追い出した。昼間っから何を言い出すのか。
「撮影中に何考えてるんですか!?」
「え~、だってほんとにきれいな指なんだもん。ヒナちゃんもそういうの想像するでしょ?」
「全然しません!」
「え~、好きなのにぃ? あ、もしかして」
 リサさんが耳元に顔を近づけて囁いた。
「ヒナちゃんって処女?」
「~~~っっ」
 真っ赤になってなんとか頷いた。
「まじ?? 本当に?? かっわい~」
 そっかあ、そうなんだあ、と何故かはしゃぐリサさんに向かって、理恵さんが呆れたように言った。
「リサちゃん、あんまりからかわないでよ」
「からかってないですよ、リサ、今超感動してるもん」
 うんうん、と一人なにかを納得している。
「ガクさんみたいな大人と超ピュアなヒナちゃん、めちゃめちゃ萌える組み合わせかも。リサ、すごいやる気でた」
 あんまりやる気を出されるのは勘弁してほしい。なんだか嫌な予感しかしない。
「二人のこと、全力で応援するから! ヒナちゃん頑張って!」
 きらきら目を輝かせて、リサさんが私の両手をぎゅっと握った。