近づきたい、と思っても、具体的に何ができるか、といえば、ほとんどなくて。
 とりあえず女子力をあげろ、という愛香の言葉を今度ばかりは素直に聞いて、今までよりも見た目に気を遣うようになった。容子さんに頼んでメイクを教えてもらって、愛香と一緒に服を買いに行く。
 お金がどんどん飛んでいくので、バイトのシフトを前より多く組んでみたけど、相変わらず桐原さんに出会うことはなかった。わざわざいつも行くところではなく前に会ったコンビニに行ったりもしたけれど、影も形も見えない。事務所に行ってみようかな、とも思ったけれど、そこまでは勇気が出なかった。
 そうこうしているうちにゴールデンウイークが過ぎて、五月の半ばに中屋さんから連絡があった。読者モデルの初仕事だ。今回は夏のお出かけ特集と題して、海沿いのスポットを回るという仕事だった。
『撮影、ガクに頼んであるから。がんばってね』
と、電話の向こうでいたずらっぽく中屋さんが言った。
 教えられた住所を頼りに、編集部を目指す。想像より小さい建物で、入口にパトリのバックナンバーがずらっと並んでいた。中屋さんは受付で待っていて、こっちよ、と案内してくれる。連れて行かれたのは、机が二列に並んでいて、一番窓際に大きいデスクがでん、と置いてある、ドラマでよく見る感じの部屋だった。中屋さんに促されて、隅のデスクで話している女の人に紹介される。
「道端です。よろしくお願いします」
 頭を下げると、その人は顔をあげてにっこり笑った。
「編集長の瀬田(せた)です。会いたかったわ。よろしくね」
 その人は見た感じ、中屋さんより少し年上かな、くらいにしか見えなかったので、編集長と聞いてびっくりした。スーツをかっこよく着こなして、バリバリのキャリアウーマン、ていう感じ。
「四月号の特集、おかげさまで好評だったのよ。理恵ちゃんに猛反対されたけど、あの写真、タイトルに使って正解だったわ」
 それを聞いて、あ、と我に返る。そういえば、ここにいる人たちみんなに、私の気持ちがモロバレなんだった。
 そう思ってみるとなんとなく、みんなニヤニヤしてこちらを窺っているような。
「今日もよろしくね。あなたにとってはベストのスタッフだと思うから」
 意味ありげにぽん、と肩を叩かれた。まるで公開処刑だ。恥ずかしすぎる。