次の日から、彼女がよく話しかけてくるようになった。他愛もない話に彼女はよく笑い、つられるように俺も笑った。初めのうちは周りに冷やかされたりするのが面倒だったけど、徐々にそれもなくなっていき、俺の目が自然に彼女を追うようになった頃、彼女から告白された。
 中屋、から自然に名前で呼ぶようになった。
 優衣(ゆい)、と。
 彼女はいつも、名前を呼ぶと、少し照れたようにはにかんだ。
 優衣と付き合い始めてから、双子の姉の理恵とも話をするようになった。見慣れてしまえば二人は全然違っていて、同じ服を着て同じ髪型をしていても、見分けられる自信がある。理恵とも仲良くなった頃、優衣には内緒、と言ってこっそり教えてくれた。
「あの子、多分ガクに一目惚れしたのよ。入学式の日から、違うクラスの私でも気付くくらいいつも見てたもん。ほんとわかりやすいよね」
 理恵も優衣も、俺のことを下の名前で呼んだ。でもやっぱり声にも性格が出るのか、理恵が呼ぶとさっぱりした響きになるのに、優衣が呼ぶと柔らかく響いた。
 優衣があの日撮った桜の写真は、当然ながらピンボケで、渡した時、彼女はひどく落ち込んだ。付き合うようになってから、ちゃんと説明しなかったことを明かすと、思い切り拗ねて、丸一日無視された。今度きちんと教えてあげるから、と俺にしては必死で謝って、ようやく許してもらった。
 一台のカメラを交互に譲り合って、二人でよく写真を撮った。彼女が撮った写真を見るのは、自分とはまた違った感性があって新鮮で、面白かった。俺が優衣を撮ることもあって、彼女が笑う、その姿を何度でも焼き付けたくて、夢中でシャッターを切った。