そうして迎えた撮影当日、二月にしては珍しくすっきりと晴れていい天気で、刺すような風の冷たさも、今日ばかりは穏やかな日差しで鋭利さを緩めている。
 サロンに着くと、中には容子さんと、知らない女性が一人、私を待っていた。
「おはよう、ヒナちゃん。こちら中屋(なかや)理恵(りえ)さん。パトリってタウン誌の編集さんで、今日の特集ページの担当さんです」
 はじめまして、と名刺を差し出すその人は、さらっさらの黒髪のとてもきれいな人だった。少し勝気そうな大きい目、爪の先まできちんと手入れしてる隙のない大人の色気。容子さんもくりくりおめめのふわふわボブで、思わず撫でたくなっちゃうような可愛さでなのに、この人たちに囲まれて、なんで私がモデルなんだろう。
道端(みちばた)日南子(ひなこ)です。よろしくお願いします」
 私も頭を下げると、中屋さんはちょっと困ったようにくすっと笑った。
「もしかしてすごく緊張してる?」
「う……はい」
「他のスタッフから聞いたわ。容子ちゃんに強引にモデルを押し付けられたんだって?」
「ひどいですよう、押し付けたわけじゃないですもん」
「容子ちゃんの強引さはみんな知ってるから。でも、人を見る目があるのも本当よ。彼女がそこまで推すんだから、って編集のみんなも楽しみにしてるの」
 過度な期待を寄せられて、恐れ多い気持ちが増していく。
「なんかますます緊張します」
「理恵さん、不安がらせないでください。大丈夫、気楽に気楽に! いつも通りのヒナちゃんでいいんですからね」
 及び腰の私を慌ててフォローする容子さんに笑いながら、中屋さんが店内を見渡した。
「それはそうと、カメラマンは?」
「来る途中でカメラ忘れてきたの気付いて、取りに戻ったんですって。ちょっと遅れます、って連絡ありました」
 それを聞いて中屋さんが肩を竦める。
「カメラマンがカメラ忘れるって。呆れた」
「まあ、ガクさんですからね」
「そうね、ガクだしね」
 二人とも、『ガクさんだから』で納得している。一体どんな人が来るんだろうか。