二人で並んで、目を閉じて手を合わせる。そこに眠っているであろう優衣に、心のなかで話しかけた。
 今まで会いに来れなくてごめん。ずっと心配かけてただろうけど、でももう、大丈夫だから。
 ……なあ、お前、俺といてちゃんと幸せだったか?
 その問いに答えるかのように、またざあっと風が吹いた。俺たちを包み込むようにして、駆け抜けていく。
 当たり前じゃない、と、優衣が笑う声が聞こえたような気がした。
 目を開けて隣を見ると、先に参り終わった日南子ちゃんがこちらを見上げて、躊躇いがちに聞いてくる。
「なに、話したんですか?」
「心配かけてごめんな、って。日南子ちゃんは?」
 聞き返すと、彼女は少し俯いて答えた。
「私も、ごめんなさい、って。前に、優衣さんに対してひどいこと考えちゃったから。あと」
 一度言葉を切って、彼女がまた顔を上げた。
「私に任せてください、って。そしたら風が吹いて。よろしくね、って言ってくれてるみたいでした」
 彼女は微笑むと、くるりと体の向きを変えて桜の木に近づく。
 木の下に立って、そっと幹に手を触れる。見上げる彼女に答えるように、風に吹かれて枝が揺れた。その様子に、優衣の姿が重なって……。
 ああ、お前、そこにいたのか。
 また風が吹いて、花びらが舞う。今度は日南子ちゃんを包み込むように、花びらごと風が通り抜けた。驚いて少し口を開いた彼女が、手を伸ばして花びらを受け止めた。
 彼女が振り向いて、俺に向かって笑った。
 どんどんと周りの景色がぼやけていく。柔らかな色彩を残したまま、ピントがずれるように彼女の周囲が遠ざかって、彼女一人が鮮やかに、浮かび上がった。
 その光景を目に焼き付ける。
 ーーもう彼女しか、見えない。
 微笑む彼女に手を伸ばす。
「行こうか」
 はい、と俺の手を取った、そのぬくもりに指を絡めて、力を込めて握り締めた。


fin.