「起きてたんですか?」
「うん、ついさっき」
「ずっと見てました?」
 目だけ動かしてこちらを窺う様子が初々しい。
 うん、と頷くと、顔の赤みが増したような気がした。
「窓をね、見てた」
 笑ってそう言うと、少し不思議そうに首を傾げて、彼女も窓の方に視線を送る。
「窓、ですか?」
「そう。ここから見た感じが、あの部屋に似てるんだ」
 彼女の中にも強く残っているであろう、あの写真の部屋。思えば、あの写真が俺と彼女を結びつけてくれたのかもしれない。
 彼女が何か言いたそうにじっと俺を見る。ベッドから降りようとして、自分が服を着てないことに戸惑い、視線を彷徨わせた。彼女の服は離れたところに置いてあって、少し迷うような素振りを見せてから、近くにあった俺のシャツに手を伸ばした。一番下まできっちりボタンを止めて、ベッドから出る。
 俺の隣に立つと、無言で抱きついてきた。その様子がなんだかあまりにも真剣で、俺はペットボトルを置いて彼女の肩に手を回した。
「どうかした?」
 頭を撫でると、抱きついてきた腕に力がこもった。
「私は、絶対いなくなったりしませんから」
 強い意志を滲ませた声が、響く。
「ずっとそばにいます。桐原さんを一人になんてしません」
 その言葉に、ふっと優衣の声が浮かんだ。
 ーーずっと、そばにいてあげる。
 これから先のことなんて、誰にも分からない。明日事故に遭うかもしれないし、気持ちがすれ違って離れてしまうこともあるかもしれない。
 それでも、いつか彼女を失ってしまうことがあったとしても、もうこの部屋から光が消えることはないと思う。自分で痛みや絶望を乗り越えていく力を、彼女が教えてくれた。
「私が、幸せにしてみせますから」
 力強く言う彼女の顔を、そっと上向かせる。彼女の目が、真っ直ぐに想いを伝えてきた。
 ……やっぱり、この目に捕らわれてしまったな。
 どうか彼女のこの目が、もう悲しみで曇ることがないように。
 言い表わすことのできない大きな感謝が伝わるように、思いを込めて、口付けた。