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眠る彼女の輪郭が、毛布の下で規則正しく上下する。そっと髪に触れると、わずかに身じろいで寝返りをうった。
彼女を起こさないように細心の注意を払って、ベッドから這い出す。体に溜まっていた澱のようなものが、すっきりと消えていた。このところずっと浅い眠りしか取れていなかったけど、隣にあるぬくもりのおかげで、久しぶりに熟睡できた。
下着とズボンだけ履いて、静かにカーテンを開ける。ちょうど太陽が顔を出して、この部屋にも光が届き始めてきたところだった。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して喉に流し込むと、カラカラに乾いていた体に染み込んでいくのがわかった。
小さなダイニングテーブルにもたれて、ぼんやりと窓に視線を向ける。
住む場所にあまりこだわりがなかった俺がこの部屋に決めたのは、その窓が東京で住んでいたアパートの出窓に良く似ていたからだった。広さは倍くらいあるけれど、ダイニングテーブルの位置から見た光景は、あの部屋によく似ている。
引っ越してきた当時はよくこうやって、自分以外は誰もいないこの部屋に朝日が差し込んでいくのを見ていた。別に感傷に浸りたかったわけではないけれど、自分はひとりだ、ということをずっと自分に言い聞かせていた気がする。
今はそこに、日南子ちゃんがいる。
なだらかに稜線を描く先に、穏やかに眠る横顔があって、窓から差し込んだきた朝日に照らされている。少しだけ口を開いて、まつげの先を震わせている様子は、いつもよりさらにあどけなく見える。
彼女には、柔らかい光がよく似合う。一番初めに抱いた、ひだまりのようだという印象は、一年を経て彼女のことをよく知るようになってからより一層強まった。
彼女一人がいるだけで、こんなにも明るい光景に変わる。
少し光が強まって、ん、と眩しそうに顔を背ける仕草を見せた。まだカーテンを閉めておいたほうがいいんだろうけど、朝日に包まれる彼女があまりにきれいで、もっと見ていたいと思う。もう少しだけこのままで、と先延ばしにしているうちに、彼女のまぶたがゆっくりと持ち上がった。
まだはっきりと意識が覚醒していないらしく、寝ぼけているように何度も瞬きをする。ぼうっとした顔で体を起こして、こちらを向いたら目が合って、ようやく俺の存在を思い出したようだった。
「おはよ」
「おはようございます……」
まだどこかぼんやりとしていたけれど、俺の視線に気付くと勢いよく毛布を口元まで引っ張り上げた。一気に耳まで赤くなって、顔を毛布に埋める。