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初めて訪れる彼の部屋は、殺風景なくらい片付いていた。
ベッドに座って見つめられると、やっぱり緊張してしまって。
震える私に、彼はたくさんキスしてくれた。額に、こめかみに、まぶたに、唇に。
首筋に、肩に、手に。全身にキスの雨が降る。
固まった私の体を、彼の舌と指が、ゆっくりと溶かしていった。むずかる子供をあやすような優しさで、壊れやすいものに触れるようにそっと。そして時に、砂漠の中で一滴の水を求めるように、荒々しく。
触れられた部分から火が点って、体中が熱くなる。殻が一枚一枚はがされて、わたしというかたちがグズグズに崩れていく。触れ合った場所が私なのか彼なのか、わからないくらいに輪郭を失ったころ、ようやく彼とひとつになれた。
貫かれた痛みは一瞬で、そのあとは彼に与えられる感覚に翻弄される。
彼はずっと気遣うように私を見た。それがなんだか悔しくて、私は彼の頭を引き寄せて、自分から口付ける。彼は笑って、すぐにその何倍もの熱を込めて返してくれた。
私がなにも考えられなくなったころ、彼が坂を駆け上がっていくのがわかった。私は夢中でしがみついて、それを受け止める。最後の瞬間に、彼が私の耳元で囁いた。
愛してる、と。