桐原さんに腕を引き上げられて、座り込んでいた体勢から立ち上がると、ちょっと足元がよろめいた。でもちゃんと抱きとめてくれて、そのままぎゅ、と抱きしめられる。寒さでこわばっていた体から、ふっと力が抜けた。彼が少しかがんで、またキスをしてくれた。
 もっとガチガチに緊張するかと思ったけど、全然そんなことなかったな。
 むしろ安心するくらい。体の一部が触れ合うだけなのに、どうしてこんなにあったかい気持ちになるんだろう。
「私のファーストキス、です、よ?」
 そっと窺うように彼の顔を見上げると、意外そうに目を見張った。
「だって、松田君は?」
「あれ、唇じゃなかったんです。ギリギリ外れてた」
 潤平くんはきちんと外してくれたんだけど、周りからは口にしてるようにしか見えなかったんだろうな。
「誤解、解こうとしたんですけど、あの時聞いてくれなかったから」
 ちょっとだけ拗ねたように言ってみたら、彼は困ったように眉をひそめて、ごめん、と言った。その顔が可愛く見えて、また笑う。
 今度は私から抱きついて、背中に回す手に力を込めた。彼の手が私のことをあやすように、ゆっくりと髪を撫でる。その手の動きが気持ちよくて、目を閉じて体を預けた。彼の手が触れる場所からやさしい気持ちがどんどん流れ込んでくる。
 私のなかに湧き上がってくる愛しさを、伝えたい。
「桐原さん」
「ん?」
「好きです」
「うん」
「大好き」
「うん」
「すごい好き。めちゃくちゃ好き。どうしようもないくらい好き」
 言葉じゃ足りない。伝えきれない。
「どうしたの、いきなり?」
 笑いながら体を離そうとする彼の手に逆らって、抱きつく腕にさらに力を込めた。
「だから、今日はずっと一緒にいてください」
 私の言葉に、彼が動きを止める。
「……俺も男だから、どうしてもヤラしい意味にとっちゃうんだけど」
「その意味で多分、合ってます」
 彼の手が迷うように背中と頭に交互に触れて、それからそっと私の手を引き剥がした。
 私の顔を覗き込んで問う。
「無理してない?」
「してません」
 ずっと触れていたいし、触れて欲しい。体の中の抑えきれない想いを伝えるには、きっともうキスだけじゃ足りない。
「私の初めて、全部もらってください」