「もしもし? ガクさん?」
『うん?』
「中央公園の噴水まで来て。三十分以内。来れる?」
 何を言っているのかと、信じられない思いでリサさんを見つめる。
『十五分で行く』
「わかった」
 そのまま電話を切ってしまったリサさんに非難の声を上げる。
「ちょっと、リサさん!?」
「リサも愛香ちゃんに賛成」
 リサさんは私の肩に両手を置いて、きっぱりとした声で言った。
「ガクさんから会いたい、って言ってくれてるんだから、会ったほうがいいと思う」
「でも」
「ヒナ、会って来い」
 今度は潤平くんだった。
「自分の気持ちを無理やり曲げるな、って言ってただろ? 今後のこととか全部抜きで、今、会いたいの? 会いたくないの?」
 途方にくれたような気分の中で、潤平くんの言葉がはっきりと胸に響いた。
 会いたいのか、会いたくないのか。
 そんなの決まってる。
「会いたい」
 素直な気持ちを口にした私に、潤平くんが大きく頷いてくれた。
「じゃあ、会って来い」
 そう言って笑ってくれる潤平くんの優しさに、胸が詰まった。私が桐原さんに会いにいくなんて、楽しいはずないのに。
 私は頷き返して、カバンを掴む。
「行ってきます!」
 みんなに向かって深く頭を下げると、勢いよく店を飛び出した。

 中央公園までは店を出てから歩いて五分くらいだった。昔は県庁があった跡地で、今でも建物の一部は資料館として残されていて、その裏が公園になっている。といっても、遊具なんかがあるわけじゃなくて、木と広場が広がるだけ。
 中央の噴水に向かう途中で、反対に出て行く人たちと何回もすれ違った。ライトアップされている間は人で賑わっていたんだろうけど、灯りが消えた今はもう誰もいなかった。
 街中のいろんなところに光のオブジェを設置するイベントの、メイン会場がこの公園だった。一番の目玉がこの噴水のそばのオブジェだそうで、木枠と和紙でできた行灯みたいな四角いライトが何個も何個も重なって、大きな山を作っている。今はそのライトが消えて、街灯にほのかに照らされているだけだった。他にもいくつもオブジェが配置されているけれど、全て灯りが消えた様子はなんだか物悲しい。