「どうかした?」
 優しく聞いてくれる声が私の背中を押した。
「仕事場、見てみたいです!」
「え?」
 戸惑うような桐原さんに一瞬怯むものの、口から出てしまった言葉は取り消せない。
 だってもう、気持ちバレてるし。これで断られたって恥ずかしいことなんにもないじゃない。勢いで言ってしまえ!
「スタジオ、ってどういうところか、興味あって!」
「うち小さいし、ご期待に添えるようなところじゃないと思うけど」
「そ、それじゃあ、桐原さんの撮った他の写真、見てみたいです。ほら、前言ってた結婚式の写真とか」
 うーん、と考えるような素振りを見せるけど、私の必死な顔を見て、まあいっか、と呟いた。
「あんまり面白くないと思うけど、それでもよければどうぞ」
 
 桐原さんのスタジオは、コンビニから歩いて五分くらいのところにあった。
 マンションの一回のテナントで、一見しただけじゃなんの場所かわからない。入口はガラス張りで、木製のちっちゃい看板がちょこんと置いてあって、かろうじてスタジオであることを示している。
 入ってすぐ左にL字型のソファとテーブルが置いてあって、壁は一面本棚になっていて、資料や雑誌がずらっと置いてある。入って右が撮影スペースになっているらしく、真っ白の広い空間が広がっていた。
「スタジオって言っても、ここで人物を撮ることはほぼないんだ。主に広告の商品の写真を撮ってる」
 物珍しげにきょろきょろしている私に、座ってて、とソファをすすめると、自分は部屋の奥の方に消えていった。応接スペースの隣に仕切り替わりのラックがあって、その横にパソコンやいろんな機械が置いてある。
 勧められるままソファに座りながら、私は早くも後悔していた。
 ついてきちゃったけど、冷静に考えたらものすごい迷惑だ。仕事場にちょっと顔を知ってるだけの女子大生なんて来られてもウザイだけ。さっきの勢いは消え去って、残ってるのはひたすらやってしまったという思いだけだった。桐原さん優しいから顔には出さないけど、めんどくさいな、って思われてたらどうしよう。
 うなだれていると、彼が奥からコーヒーを持ってきて私の前に置いてくれた。
「狭いしつまんないでしょ?」
 何を勘違いしたのか、ごめんね、と謝る桐原さんの言葉を慌てて否定する。