「もしかしたらいつか、その気持ちも薄らいで、また違う人を好きになるのかもしれないけど。そんなのいつになるかわからないし」
「ちゃんと待つ、って言ったよ? 俺」
 私の言葉を遮って、潤平くんが強い口調で言った。
「ヒナが違う人のこと考えようと思えるまで、いつまでも待つよ」
「本当にいつになるかわからないんだよ?」
「それでもいいよ」
 きっぱりとした言い方に、一瞬心が揺れた。でも私は、そうやって違う人を見ている人を想い続けることが、どんなに辛いか知っている。
 私も最初は、どれだけでも待てるって思ったはずだったのにな。今はこんなにも苦しい。
「私が嫌なんだよ」
 自分が言われて辛かった言葉を、今自分が言おうとしている。
「もう、待たないで欲しい」
 どうか私とは違う子と、幸せになって。
 あの時そう言った桐原さんも、同じように思っていたのだろうか。だとしたら彼も苦しかったのかもしれないと、今ようやくわかった。
「俺が待ってたら、ヒナは辛い?」
「少し辛い、かな」
「そっか」
 わかった、と小さく呟いた。
「じゃあ、頑張って忘れるようにする」
 そう答える潤平くんの声のほうがよほど辛そうで、途端に彼を傷つけてしまった後悔に襲われる。
「別に、無理やり気持ちを曲げようとしなくてもいいと思うんだよ。でも、私に囚われたりはしないで欲しい。時間が経って、他の人のことも見えてきて、それで自然に別の誰かを好きになれたら、それが一番なんじゃないかなって」
 途中から自分に言い聞かせるみたいになってきて、我に返る。潤平くんを見ると、少しおかしそうに笑っていた。
「似てるな、俺たち」
 一方通行の想いを、同じように抱えている。それを今、同じように変えようとしているわけで。
 潤平くんがくすくす笑っていて、私もなんだかおかしくなって、二人で一緒に声を出して笑った。
「じゃあ、競争しよう。俺が別の誰かを好きなるのが早いか、ヒナが俺を好きになるのが早いか」
「私の相手は潤平くん一択なの?」
「当たり前じゃん。俺以上にいい男なかなかいないって」
「何その自信」
 でも本当にそう思う。こんないい人、そうそういない。
 いつかもし、自然と潤平くんに気持ちが傾くなら、それもありだと思う。その時に潤平くんが違う人を好きになっていたら、またそれも仕方ない。何にも縛られずに、心が感じるままに誰かを想うことができれば、それで十分幸せだ。
 いつか桐原さんも、優衣さん以外の誰かを、そんな風に自由に愛せることができたらいいな。潤平くんと笑い合いながら、心の中でそんなことを思った。