誰が考えたって優衣が死んだのは俺のせいで、俺がいなければ優衣はもっと違う人生を歩めたことは明らかだ。おじさんの言葉はなに一つ間違っていない。
「本当にそう思うか?」
「はい」
おじさんが床から視線を上げて俺を見た。
「理恵がこの前、古いビデオを引っ張り出して見ていてね。十年前、優衣が妊娠中にうちで過ごした時に撮ったものだが」
いきなり話が変わった。無言のままの俺を見ながら、おじさんは少し口元を和らげた。
「今の理恵にそっくりだった。輝いている、とでも言うんだろうか、自分の娘に言うのもなんだが、とても綺麗だった。君に会いたいと言って笑っていたよ。あの時の優衣は確かに、幸せだったんだろう」
昼間の理恵と同じことを、まさかおじさんから言われるとは思っていなかった。
「理恵から君に再会したという話を聞いて、家内は嬉しかったようだ。私のいない時を狙って、よく君の話をしている。写真家としてきちんと活躍しているのを、喜んでいるようだ」
息子みたいに思っているのかもしれんな、という言葉に、反射的にありえない、と思った。俺のことをそんな風に大事に思うなんて、そんなのありえるはずがない。
「私も最近になってようやく、謝らなければと思うようになった。……ひどいことを言って、すまなかった」
心臓の奥の温度がかっと上がった気がした。
何を言っているんだろう。なんで謝ったりする? そんなことしなくていい、俺は責められて、罵倒されて当然なのだから。
「謝っていただくことなんてありません。優衣が死んだのは確かに俺のせいです。なにも間違ったことなんて言ってない」
興奮しかかった気持ちを押しとどめて、それでも少し声が震えた。謝罪の言葉をもらう権利なんて俺にはない。俺のせいだと恨めばいいんだ。嫌悪して罵倒して、お前が悪いと言えばいい。
なんで責めない? 怒らない?
「君は十年間、ずっとそう思ってきたのか?」
「だってそれが真実です。俺が優衣を死なせた」
俺が関わらなければ優衣は死ななかった。
俺と出会わなければ優衣は幸せになれた。
俺がいたから優衣はいなくなった。
俺のせいで。
俺がいなければ。
「君を一番許せないのは、君自身かもしれないな」
いつの間にか歯を食いしばっていた俺を、おじさんが目を細めて見ていた。
「優衣が死んだのは誰のせいでもない。誰ももう、君を責めてなどいないし、君が君自身を責めることを、誰も望んでいない」
心のなかの深い場所に、その言葉が突き刺さる。一番俺を憎むべき人に、そんな事言われたくなかった。もっと冷たい言葉で責めて欲しい。責め続けていて欲しい。許してなんか欲しくない。
ーー誰かが俺を責めてくれなければ、俺が一人で自分を憎み続けなければいけなくなる。
「もう十年だ」
静かな声が、経てきた年月の長さを告げる。
十年。こんなにも長い間、俺は勝手に自分で自分を罪悪感に縛り付けて。
「もう、自由になりなさい」
そう一言言いおいて、おじさんは静かに出て行った。
「本当にそう思うか?」
「はい」
おじさんが床から視線を上げて俺を見た。
「理恵がこの前、古いビデオを引っ張り出して見ていてね。十年前、優衣が妊娠中にうちで過ごした時に撮ったものだが」
いきなり話が変わった。無言のままの俺を見ながら、おじさんは少し口元を和らげた。
「今の理恵にそっくりだった。輝いている、とでも言うんだろうか、自分の娘に言うのもなんだが、とても綺麗だった。君に会いたいと言って笑っていたよ。あの時の優衣は確かに、幸せだったんだろう」
昼間の理恵と同じことを、まさかおじさんから言われるとは思っていなかった。
「理恵から君に再会したという話を聞いて、家内は嬉しかったようだ。私のいない時を狙って、よく君の話をしている。写真家としてきちんと活躍しているのを、喜んでいるようだ」
息子みたいに思っているのかもしれんな、という言葉に、反射的にありえない、と思った。俺のことをそんな風に大事に思うなんて、そんなのありえるはずがない。
「私も最近になってようやく、謝らなければと思うようになった。……ひどいことを言って、すまなかった」
心臓の奥の温度がかっと上がった気がした。
何を言っているんだろう。なんで謝ったりする? そんなことしなくていい、俺は責められて、罵倒されて当然なのだから。
「謝っていただくことなんてありません。優衣が死んだのは確かに俺のせいです。なにも間違ったことなんて言ってない」
興奮しかかった気持ちを押しとどめて、それでも少し声が震えた。謝罪の言葉をもらう権利なんて俺にはない。俺のせいだと恨めばいいんだ。嫌悪して罵倒して、お前が悪いと言えばいい。
なんで責めない? 怒らない?
「君は十年間、ずっとそう思ってきたのか?」
「だってそれが真実です。俺が優衣を死なせた」
俺が関わらなければ優衣は死ななかった。
俺と出会わなければ優衣は幸せになれた。
俺がいたから優衣はいなくなった。
俺のせいで。
俺がいなければ。
「君を一番許せないのは、君自身かもしれないな」
いつの間にか歯を食いしばっていた俺を、おじさんが目を細めて見ていた。
「優衣が死んだのは誰のせいでもない。誰ももう、君を責めてなどいないし、君が君自身を責めることを、誰も望んでいない」
心のなかの深い場所に、その言葉が突き刺さる。一番俺を憎むべき人に、そんな事言われたくなかった。もっと冷たい言葉で責めて欲しい。責め続けていて欲しい。許してなんか欲しくない。
ーー誰かが俺を責めてくれなければ、俺が一人で自分を憎み続けなければいけなくなる。
「もう十年だ」
静かな声が、経てきた年月の長さを告げる。
十年。こんなにも長い間、俺は勝手に自分で自分を罪悪感に縛り付けて。
「もう、自由になりなさい」
そう一言言いおいて、おじさんは静かに出て行った。
