とりあえず無事に病院について、理恵が自力で受付に行ってくれて、その先は迎えに来た看護師に託す。
 空いていた待合室の椅子に腰を降ろして、長いため息を吐き出す。なんかすごい疲れた。
 無事に病院までたどり着いたことで若干心に余裕が生まれて、なんとなく周りを見渡すと、先に待合室にいた妊婦とその旦那らしき人が、俺を心配そうに見ていた。産婦人科なんて初めて来たけど、検診に付き添ってくる旦那もいるんだな。優衣の時も、一回くらい一緒に行ってやればよかったかな、と少し後悔する。
 理恵は看護師に連れて行かれたまま、どうやら診察を受けているようだった。これは今から出産する、ってことでいいのか? だったら沢木さんに連絡したほうがいいんじゃ?
 理恵に確認を取ってからの方がいいか一瞬迷ったけど、またよくわからない遠慮をしそうな気がして、俺の独断で連絡することにした。一度外に出て、電話をかける。
 沢木さんはすぐに出てくれて、のんきな声でおう、どうした、と問いかけた。
「理恵が、破水?したみたいで。多分、今からお産、始まります」
『え、マジで!?』
 さすがの沢木さんも慌てた様子で、なるべく早く向かうから、と言ってバタバタと電話を切った。この様子なら、産まれる前には病院に到着してくれるだろう。
 建物の中に戻ると、俺を探していたらしい看護師に呼び止められる。
「ご主人さまですか?」
「いえ、ただの付き添いです。旦那には連絡したのですぐ来ると思います」
「そうですか。もう陣痛もきてるし、順調にいけば今日中に産まれてくれるかもしれませんね」
 さらっと言われたそのセリフに驚いた。病院に来たら即出産、というわけではないらしい。今日中って、まだ昼の三時だぞ?