髪を切って、特別サービスです、とトリートメントまでしてもらって、店を出たらもう辺りも暗くなっていた。今日の晩御飯どうしようかなあ。適当にコンビニでいいか。
 ぼんやり歩きながら、容子さんとの話を思い返す。
 みんな、何を基準にして、この人が好きって断言できるんだろう。かっこいいな、とか話をしてて楽しいな、って思う子なら、他にもたくさんいるけど、そんな簡単な気持ちで付き合ったりするんだろうか。今時小学生だってもっといろいろ進んでるらしいのに、二十歳にもなってこんなことで悩むなんて、私は今までの人生で何を学んできたのか。
 うーん、と上の空でコンビニに入ろうとしたら、ちょうど店内から出てきた人にぶつかってしまった。
「ひゃあっ」
 変な声を出してよろけた私は、運悪く履いていた靴のかかとがうまく溝に引っかかってしまい、バランスを失って大きく倒れこむ。宙に浮いた腕を咄嗟にぶつかった人が捕まえてくれたおかげで転ばずにすんだけど、カバンが落ちて中身が散乱した。
 いつも周りをよく見て歩けって言われてるのに! 
「すみません!」
「いえ、こちらこそ……」
 慌てて中身を拾おうと身を屈めると、頭の上から知ってる声が降ってきた。
「日南子、ちゃん?」
 ばっと勢いよく顔をあげると、私を見下ろしていたのは、さっきまで散々考えていた桐原さんだった。
「え、あ、なんで、え?」
 あんまり驚いたせいで言葉が出なくなっている私を面白そうに見て、手早く財布や携帯を拾い上げ、カバンごと手渡してくれた。
「スタジオがこの近所なんだ。やっぱり俺たち、行動範囲が似てるみたいだね」
 しゃがんだままぼうっとしてしまった私の手を取って立たせてくれる。
「怪我してない?」
「全然、大丈夫です。いつも何かにぶつかったりつまずいたりして、友達に怒られるんです。ほんとご迷惑かけてごめんなさい」
 ぺこん、と頭を下げると、桐原さんは笑って言った。
「そういえばこの前も階段落ちそうになってたね」
 ああ、恥ずかしいところばっかり見られてる。
「今度からもっと気をつけて」
 じゃあ、とそのまま立ち去ろうとする桐原さんを、私は思わず呼び止めていた。
「あのっ」
 桐原さんが、ん?と振り返って首をかしげる。
 勝手に声が出てしまっただけでもちろん用事なんてない。でも、せっかく会えたのに、こんなにあっさり別れてしまうのは嫌だった。